32 ページ33
シンゴが私の髪に手を伸ばす。
「いいよ。
自分で取るから」
言うものの。
鏡もないし、取れない。
「ええから。
おとなしいしとけって」
シンゴのものすごい真剣な顔が、
ぐいっと近付いてくる。
近過ぎ。
思わず、シンゴの手を払いそうになる。
その時。
バンって。
ドアがすごい音でしまった。
風のせいかと思ったら、
ショータが立ってる。
「しんちゃん、電話です。
3番に専務から」
「おう。
わざわざありがとうな。
よう分かったな、ここ」
シンゴが、慌てて駆けてく。
風の舞う、屋上。
ショータが、私にゆっくり近付いてきて。
「俺が取ります」
一言だけ言って、
私の髪に手を伸ばす。
まとめた髪に絡まった落ち葉は、
なかなか取れないの。
指が髪に触れるかすかな感覚。
胸が高鳴って、苦しい。
「はい。取れた」
ショータが笑った。
それだけなのに、胸がつかまれたみたいになる。
寒さなんて、不思議なぐらいに感じなくて。
「A先輩、まだ寒い?」
見透かされたように、
ショータに聞かれた。
さっきから、敬語じゃない。
ここ、職場なのに・・・
ううん
そう答えなきゃ、
ショータは、すぐに戻ろうって言う。
分かってるのに。
私、先輩だから。
「うん。
寒いね」
そう言うしかない。
576人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:fool x他1人 | 作成日時:2017年7月7日 9時