心の距離【Kei.I】4th

風邪引きくんとの攻防戦 ページ4

そして再び寝室に戻った伊野ちゃんは
もちろん寝てくれるのかと思っていた。

 

だけど彼はベッドに行かずクローゼットを開けてゴソゴソしている。

 

それを静かに見守っているとさっきよりご機嫌な顔で私にクローゼットから出したものを渡してくれた。

 

驚くべき言葉と共に。

 

「A寝るときこれ着てね。

ちょっと大きいかもだけど。

あとシャワー浴びるときのタオルだけど脱衣所に積んであるのどれでも使っていいよ。」


予想外の彼の行動と言葉に固まる。


『えっ？


どうして私伊野ちゃんの部屋着を渡されてタオルの説明をされてるの？


そもそも寝る時って』

 

人生の中でまだ経験したことない状況にリアクションが遅れる。

 

そして聞き間違えかもと思いやんわりと自分の意思を伝える。

 

「伊野ちゃん私うどんたくさん作ったから明日の朝とお昼に食べてね。

まだ薬効かなくてしんどいかもだけどもう寝よう。」

 

遠回しに私が帰ることを伝えてみた。


私の言葉を聞いて途端にご機嫌から不満そうな顔に変わる。


可愛くほっぺを膨らまして私をじっと見る。


言葉は言わない。


だけど自分の気持ちをその表情で私に伝える。



それに負けずに言葉を続ける。
ここで負けたら大変なことになっちゃうから。

 
そしてやんわり帰ることを伝えた。

 

「伊野ちゃんが寝るまで居るから何かあったら言ってね。


あとは鍵は掛けてポストの中に入れておくから。」



だけど彼はそれを許してくれなかった。



熱のせいでいつもと違う荒い息遣いで
彼の言葉が聞き間違えではないことを私に伝えた。

 
 

「なんでぇ？

一緒に居てくれるって言ったよね？」

 

伊野ちゃんは不満顔のまま。


その顔に彼のしてほしいことをしてあげたくなる気持ちを頑張って抑える。

 

だって経験のない私にだってわかる。


いくら友達といえど男の人の家に泊まってはいけないことくらい。

 

しかも彼はただの大学生じゃないのだから。

 

「違うの。

私勘違いしちゃってて。

伊野ちゃんが考えてることでいいよって言ったわけじゃないの。」

 

 私の必死の拒否の言葉で彼の顔が今度は悲しいものに変わる。

 

「でも俺Aが居ないとちゃんと寝れないもん。」




『熱のせいで心細くなってるんだよね』


負けそうになる気持ち

 

そして彼は直接的な言葉で私におねがいをする。

 

「今日だけでいいから一緒に寝てほしいの。」

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