06-結局彼が好き ページ7
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不意にドアが開いて、誰かが入ってくる気配がした。
パッと顔を上げた先のアズール先輩と目が合う。
信頼できる人が来てくれた事に若干安心感が募る。
「悪かったですね、フロイドじゃなくて」
「え、そんな……」
「顔に出てますよ」
「あ…………」
そんなつもりは無かったのに、一瞬でもフロイド先輩が来てくれたんじゃないかと、まだ心のどこかで残っていたのか。
部屋に閉じ籠って、時間にして約数分の出来事。
だけど一人の時しか泣けない性分の私は、膜を張っていた目を数回擦った。
「今度は一体何があったんです?」
「アズール先輩、話聞いてくれるんですか?」
「貴方が落ち込んだままでは仕事に支障が出るでしょう」
別に、私なんかが居なくたって今日は仕事を回せる筈なのに、こういう時にアズール先輩は優しいんだ。
だからいつも、彼に甘えてしまう。
フロイド先輩には言えない思いを、彼には打ち明けられるから。
「……調理場で火傷をしてしまって」
「火傷? どこです、治しましょう」
「平気です! フロイド先輩が、冷やしてくれたので」
「………………ああ、成る程」
どうやら彼はその一言だけで全てを理解してくれたみたいだった。
確認として、アズール先輩が「それで、フロイドは貴方に何を?」と続きを促されたので、口を開く。
「歌を……歌わないで、って言われました……」
「はあ?」
「今日廊下で私が歌っているのを聞いていたみたいで、そう言われて……余程私の歌が嫌いみたいなんです」
「…………………はあ…………」
長い沈黙の後に、ため息にも近い声がアズール先輩から漏れた。
見上げると、彼は心底うんざりした顔をしていて。
一度眼鏡をくい、と直した後、私に手を差し出し、私が握り返すと優しく立ち上がらせてくれた。
「私からの弁解で申し訳ありませんが、フロイドは貴方の歌を嫌ってはいませんよ」
「えっ本当に?」
「ええ。ただ、彼はきまぐれですし、女性の扱いが不器用なんです。大目に見てやって下さい」
「……わかりました…………」
同じ女の子のユウちゃんには、そんな事無いんだけどな。
一瞬自分の中に不快な感情が芽生えて、押し殺す様に先輩に返事する。
「フロイドは先に帰ってますから、ご自身のタイミングで戻って下さい」そう言い残してアズール先輩は休憩室を後にした。
……フロイド先輩が居ないのを寂しく思う私はきっと重症だ。
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おそらまめ(プロフ) - 森Shizuku?さん» コメントありがとうございます!高校生の時のあの青春って本当に素敵ですよね。その通りです、10話のタイトルはエースの言葉を代弁しました!何度もご覧いただき光栄です…。本当にありがとうございます! (2021年10月6日 11時) (レス) @page11 id: 77433e9bba (このIDを非表示/違反報告)
森Shizuku?(プロフ) - このお話、何度読んでも素敵です。10話のところってエースの言葉なんですかね。深いし、みんなそれなりに高校生してるなと思いました! (2021年10月1日 20時) (レス) id: 7c267cd787 (このIDを非表示/違反報告)
おそらまめ(プロフ) - 智真さん» 智真様、完結のお祝いありがとうございます!そうなんです、男子高校生をやってるフロイドくんが書きたかったんです…!そう言って頂けて感激です!監督生と2人の間に何があったかは、ご想像にお任せします(笑) (2020年8月26日 23時) (レス) id: 77433e9bba (このIDを非表示/違反報告)
おそらまめ(プロフ) - 華のフロランタンさん» コメントありがとうございます!そう言って頂けて嬉しいです(^^)また何かご縁がございましたらどこかでお会いしましょう! (2020年8月26日 23時) (レス) id: 77433e9bba (このIDを非表示/違反報告)
おそらまめ(プロフ) - モブサイコ100さん» 最後までご愛読ありがとうございます!オクタは本当に素敵な3人なので絶大な人気ですよね…!ここは沢山素敵な作品がございますが、読者様にとってこの作品が心に残る作品であれば幸いです(^^) (2020年8月26日 23時) (レス) id: 77433e9bba (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:おそらまめ | 作成日時:2020年8月3日 1時