28‐誰のものにも ページ29
.
「＿では、僕は濡れタオルを取ってきます」
「あ、はい…」
無我夢中で走り出した数分前。
大好きな先輩が高熱で倒れてしまった事で混乱した私は半分泣きながらVIPルームの扉を開けた。
少々驚いた様子のアズール先輩は、何を言ってるか分からない私を落ち着かせてくれ、さらに迅速に対応してくれた。
おかげでフロイド先輩は、今はジェイド先輩に運ばれて自室のベッドで眠っている。
「…先輩……」
「んっ…………」
時々、苦しいのか目を閉じたまま閉じた口から唸り声が漏れている。
それに私はどうすることもできない。
ジェイド先輩が桶を片手にタオルを持ってきてくれた。
彼にそれを差し出されて素直に受け取る。
「僕はまだ仕事が残っているので戻ります。
フロイドが落ち着くまで側にいてあげてください」
「はい、ありがとうございました」
ぱたんと閉まる扉を合図にしん、と静まり返る部屋。
ベッド脇に椅子を持ってきて、そっとフロイド先輩の額に濡れタオルをあてがった。
＿その時、薄らと開けられたオッドアイ。
「…！ 先輩」
「………A……？」
「はい。まだ熱がありますから寝ていて下さい」
「……オレ、どーなってんの………」
「倒れたんですよ。体調悪いの、気付けなくてすみません」
私の言葉に返答する気力もないのか、ぼうっと私を見つめ続ける先輩。
ゆらりと震える手が私の顔に伸びてきたので、咄嗟にその冷たい手を掴んだ。
「………A………カニちゃん、と……付き合ってんの…？」
「えっ！？ …ごほん、つ、付き合ってないですよ」
「そっか……」
先輩はまた柔らかに微笑んで、「良かった」なんて。
何、それ。どっちなの。
うとうとしている先輩を見計らって、私は立ち上がる。
すると掴んでいた先輩の手が私のを強く握り返してきた。
「………ヤダ、オレの事置いてくの…」
「でも、行かなきゃ」
先輩の手は案外簡単に振りほどけた。
それくらい彼が弱っている証拠だ。
お大事に、と一度彼の濡れタオルを調整して背中を向けると、弱弱しい、とろんとした甘ったるい声が「A」と私の名前を呼んだ。
「………誰のものにも、なんないで…」
勢いよく後ろを振り返る。
でも、先輩は瞼をしっかり閉じて寝息を立てていた。
……ずるいよ、先輩。どこまでも。
「＿＿先輩のものにも…なっちゃだめ？」
彼には、こんな言葉届かない。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 878人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「ツイステ」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
おそらまめ(プロフ) - 森Shizuku?さん» コメントありがとうございます！高校生の時のあの青春って本当に素敵ですよね。その通りです、10話のタイトルはエースの言葉を代弁しました！何度もご覧いただき光栄です…。本当にありがとうございます！ (2021年10月6日 11時) (
レス) @page11 id: 77433e9bba (このIDを非表示/違反報告)
森Shizuku?(プロフ) - このお話、何度読んでも素敵です。10話のところってエースの言葉なんですかね。深いし、みんなそれなりに高校生してるなと思いました！ (2021年10月1日 20時) (レス) id: 7c267cd787 (このIDを非表示/違反報告)
おそらまめ(プロフ) - 智真さん» 智真様、完結のお祝いありがとうございます！そうなんです、男子高校生をやってるフロイドくんが書きたかったんです…！そう言って頂けて感激です！監督生と2人の間に何があったかは、ご想像にお任せします（笑） (2020年8月26日 23時) (レス) id: 77433e9bba (このIDを非表示/違反報告)
おそらまめ(プロフ) - 華のフロランタンさん» コメントありがとうございます！そう言って頂けて嬉しいです(^^)また何かご縁がございましたらどこかでお会いしましょう！ (2020年8月26日 23時) (レス) id: 77433e9bba (このIDを非表示/違反報告)
おそらまめ(プロフ) - モブサイコ１００さん» 最後までご愛読ありがとうございます！オクタは本当に素敵な3人なので絶大な人気ですよね…！ここは沢山素敵な作品がございますが、読者様にとってこの作品が心に残る作品であれば幸いです(^^) (2020年8月26日 23時) (レス) id: 77433e9bba (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：おそらまめ
| 作成日時：2020年8月3日 1時
