アンデルセンの両片想い【フロイド】

01-汗を拭うのを忘れる程 ページ2

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アブラゼミの鳴き声が学園中に響きあたる、蒸し暑い夏の朝の廊下。

先週まであんなに雨が降っていたのに、もう雲は水分という存在を忘れたのか。
絵にかいたような入道雲が空を彩る。


しかし梅雨明けを迎えたからか、学園で過ごす生徒たちはカラッとした表情で健康的に日に当てられている。





「あ〜〜あぢィ……」

「フロイド、しっかりしてください」





ただ、この男達だけは唯一夏の到来を望んでいないようだった。


だらけた制服をさらに気崩して隣の男に凭れる男＿フロイド・リーチ。

そしてそれをさらっとした顔で受け止めるのは、彼の相方＿ジェイド・リーチである。





「なんで陸ってこんな気温の変化激しいわけぇ？
しかもちゃんと服着ねぇとアズールに怒られるし」

「慣れてください、僕たちは今は陸の人間ですから」





真っ青な顔をして夏バテ気味にだらだらと歩くフロイド。
すると、「おや」と隣に居るジェイドが足を止めた。

彼は微笑ましそうに窓際へ首をやっていた。





「あそこに居るのは……Aさんではありませんか」

「……本当だぁ」





彼の言葉に、フロイドも腰を折って窓際へ目を送った。

そこには、エースとデュース、監督生のユウにグリム、そしてAが居た。


彼女はこの学園で、唯一入学を許可された女子生徒だ。
その理由は、近年稀に見る黒魔法の使い手である事と、本人が入学を強く希望したからである。


健康的な肌を全面に見せ、ハッとする程目を引かれる赤髪が波巻きに空気を含んで胸に広がっている。
膝上のスカートから伸びる長い脚は形よく艶々していた。





「楽譜を持っている……歌の練習でもしているのでしょう」

「歌？」





フロイドが彼女から目を離す事無くジェイドにそう聞き返した時、彼らとじゃれあっていたAが、片手にしていた楽譜をまじまじと見はじめ、やがて口を開いた。





「＿the seaweed is always greener……」

「＿＿……」

「相変わらずAさんは歌が上手ですね」





ジェイドは感嘆の声を上げてその歌に耳を傾ける。
一応隣のフロイドに言葉をかけたつもりだったのだが、いつまでたっても返事が返ってこない。


「フロイド？」ジェイドは隣の男を見る。



彼は、こめかみから伝う汗を拭うのも忘れて、彼女の歌に聞き惚れていた。
そんな様子にジェイドは、見えないように微笑む。





フロイドは、Aに恋をしているのだ。





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