１４８ ページ8
＊
翔くんは顔半分をおおっていたマスクをさげると、アイドルスマイルを炸裂させながらおまわりさんにつげた。
「彼女、僕のツレなんです
だから、あまり事を荒げたくないので」
そして、つくえの上にだされていた書類をおまわりさん側へぐいっとおしやった。
だれにも有無をいわせないといった圧倒的なしぐさと表情。
おまわりさんふたりももちろん翔くんがだれかということにすぐに気がつき、いたしかたない雰囲気はあったが、お互いに目くばせするとかるくうなづいた。
「ただ、彼が彼女につきまとっていたということは事実です
彼にはそれなりの忠告だけはお願いします」
翔くんはそういうとわたしの肩をそっと抱き、にっこりほほえむと立ちあがるために手をさしだしてくれた。
「おさわがせして申し訳ありませんでした」
深々とおまわりさんにあたまをさげる翔くんにならい、わたしもハルも謝罪した。
ガラス戸をハルがからからとあけたとき、ふっと翔くんのてのひらのぬくもりがわたしの肩から消えた。
ふりむくと翔くんはリュウの耳もとで、
「なにかおきたときにただでは済まないのはだれなのかをよく考えたほうがいい
…て、まえにもつたえたはずだけど、わかってくれていなかったのかな？」
雑誌の表紙をかざれそうな笑顔でそうささやいていた。
＊
「またたすけてもらっちゃった…
翔くん、ほんとにありがとう」
マスクをかけなおし、だてめがねをかばんからとりだしていた翔くんにわたしはいった。
わたしたち３人は大通りをゆっくりとした足どりでならんであるいていた。
そんなに多くはない交通量、それでも走るくるまはつぎつぎとわたしたちをおいこしていく。
オレンジ色の外灯にてらされた翔くんはわたしに顔を近づけるとあったかいてのひらであたまをぽんぽんとたたく。
「いったでしょ？
なにかあったらかならずたすけるって」
まんまるな瞳をほそめてわたしをみつめる翔くん。
そのことばにやっぱりすこしとまどう自分がいたけれど、わたしはすぐにおおきくうなづいた。
「じゃ、これからもなにかあったらお世話になりまーす」
「おまかせください」
翔くんはまるで執事みたいに胸に片手をそえてぺこりとおじぎをしてみせてくれた。
キャップをかぶっていない翔くんの髪型がさっきテレビでみたのとおんなじで。
わたしはなんだかうれしくなってしまった。
＊
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 178人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ひか | 作成日時：2016年1月19日 17時
