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＊
わたしはあしくびをぬらし、水面をかるくけりあげた。
かたむきかけた太陽のひざしが水しぶきに反射して、濃紺の夜空にうかぶ星のようにきらきらとひかる。
そんなわたしの背中にはしゃがみこんだままの智くんの視線がぺとりとはりついていた。
あのあと、興奮さめやらぬ相葉くんを翔くんと潤くんがかつぐようにひっぱりあげ。
「おさきに」
口角をきゅっとあげながらウインクをなげつけてきたニノといっしょにみんなはひきあげていった。
だから、いま。
岩場にかこまれたちいさなちいさなビーチにはわたしと智くんがふたりぽっちでのこされていた。
あしもとをみると海のなかでつまさきの赤がゆらゆらとゆれている。
なにげなくふりかえると、智くんはあたりまえのようにわたしをみていてふにゃりと笑う。
そんな智くんにちいさく笑ってみせると、わたしはまた水面をけりあげた。
はなしたいことはたくさんあるのに。
となりでぴったりくっつきたいのに。
わたしの左手は智くんの右手をつかみたいのに。
からだごとぜんぶだきしめてほしいのに。
ほんとうは欲のかたまりでおしつぶされそうなのに、わたしはふしぎといまのこの距離感をたのしんでいた。
ねえ、智くん。
わたしはかわれたかな。
つよく、なれたのかな。
智くんにまけないくらい、つよく、なれたのかな。
＊
どのくらいのじかんがたったのか。
潮がみちてきて、あしくびまでだった水面は気がついたらふくらはぎまで到達していた。
わたしは存在を確認するかのようにたまに顔をあげる。
そのたびにわたしと智くんはふわりと視線だけをからませつづけた。
あたりはオレンジ色にそまりはじめていて。
そろそろビールのじかんだな。
無意識にそう思ったわたしの背後から智くんの声がひびいた。
「ビール、のむ？」
いつのまにかたちあがっていたらしい智くんは、わたしのすぐまうしろでたちどまっていた。
「…びっくりしたあ」
いきなりの急接近に思わず胸をおさえたわたしに智くんはくびをかしげてふにゃりと笑った。
そして、ぱちゃんと波をかきわけるようにしてわたしに１歩ふみだすと、そっと右手をさしだしてきた。
わたしはだまったままじっとその手をみつめる。
なまあたたかい風がふたりのあいだをとおりぬけていったとき、智くんはきゅっとてのひらをにぎってみせた。
「ほら」
またてのひらをぱーにひらく。
「…ね」
＊
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作者名：ひか | 作成日時：2016年1月19日 17時
