１７７ ページ37
＊
「す、」
すすすすごい風！！！！！
あたまのてっぺんでひとくくりにした髪がばさばさとみだされる。
ヘリはすでに着陸態勢にはいっているのか、ずいぶんと低い位置で羽をまわしていた。
島のおじいたちは到着したらすぐに中継にはいるといっていた。
カメラとか照明とか音声とか、撮影についてくわしいことはわからないけれど、すでに準備はされているってこと…？
でも、灯台からみたかぎりではそんなようすはなかった。
どうするつもりだろう。
疑問をいだきながらもわたしはヘリポートをとおりすぎ、ほそい小道へ足早にむかう。
舗装されていない草ぼーぼーのけもの道。
暗闇の中ひたすら智くんのあしくびをみつめながらあるきつづけたあのよるとおなじ道を、わたしは絵の具でぬりつぶしたような青空をまっすぐに見据えながら走りつづけ。
視界がひらけたと思ったらあのビーチにでていた。
地面が土からさらさらな白い砂にかわるだけで周囲があかるく感じる。
「…だれもいない」
わたしはビーチの入り口で立ちどまり、周囲をみわたすが機材のひとつもみあたらない。
ここじゃないの…？
すうっと深呼吸したわたしはおだやかな波にさそわれるように１歩ふみだした。
だれのあしあともついていない砂浜をさくりさくりとかみしめるように歩く。
もうすぐ波打ち際、というところで、ビーチをかこむ岩場の奥にひそめく木々がざわっとおおきく音をたてた。
…ヘリが着いたんだ。
わたしはふりかえり、自分がいま走ってきた道をじっとみつめた。
きらきらまぶしい太陽はまっすぐにひかりをふりそそぎ。
いくつもの青がおりかさなる海は果てしなくひろがる。
どこまでもつきぬける空にぽとりとうかぶまっ白な雲へ手をのばせば、
きっと届く。
迷いを消したわたしはその場で突っ立ったまままぶたをとじた。
波のゆらゆら。
木の葉のさわさわ。
さかなが水面でぴちゃんとはねて。
肩と背中がじりじりと焼けていき。
いくつもの笑い声と足音がきこえはじめた。
それらに反応したわたしはふわりと目をあける。
あざやかすぎる景色の中、翔くんの声がより一層きわだってわたしの耳にひびいた。
「こんにちわー、嵐でーす！！」
ほんとに、きた…
５人のすがたをとらえたわたしはぎゅっとくちびるをかみしめた。
せりあがってきそうな感情を必死に押し殺すわたしに、智くんがふにゃりと笑った。
＊
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 178人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ひか | 作成日時：2016年1月19日 17時
