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＊
伊波島には３泊する予定だ。
わたしはあの日とおなじペンションの部屋をとった。
８畳ほどのスペースにシングルベッドがふたつのツインルーム。
ちいさなテレビと冷蔵庫。
数歩あるけば横断できるくらいのちいさな部屋。
カーテンをあけはなった窓からビーチをみおろす。
そういえば、あのとき智くんははじめて笑ってくれた。
かくしきれなかったふにゃりとゆるんだくちもと。
わたしはちいさく思いだし笑いしつつ、自分の左手をひろげてみた。
…あれ。
あのとき。
智くんが笑う直前。
ふわりとわたしのつめをゆびでなぞっていた。
「…えええ」
ちょっとまて？
いや、まさか。
ガラにもなく自分の顔がみるみるうちに赤くなるのがわかった。
「ありえないありえない！！」
自意識過剰もいいとこだ！！
わたしはタンクトップの胸元をぱたぱたとあおがせながら、窓のまえを無意味にいったりきたり。
あついのは窓からふりそそぐ太陽のひざしのせいだけじゃない。
「だって…」
智くんがつめにふれるときはいつも…
「ぎゃあああああ！！」
わたしのさけび声がちいさな部屋にひびきわたった。
たしか、その直後わたしは『ビーチにおりてみたい？』ってきいた。
そしたら笑われたんだ。
そうだ、笑ったんじゃなくて、あれは笑われたんだ。
「どんだけ肉食なんだよ！！」
智くんがそういう生活をしてきたであろうことにいまさら気がつき愕然とするが。
「結局わたしにはずっと手だしてこなかったなあ…」
この３年間もどんな生活をしてたかよくわからないけれど。
もしかしたらヤリ放題してたのかもしれないけれど。
左手をぎゅっとにぎりしめると、わたしは視線を水平線にうつした。
＊
ペンションからでて左にまがれば一面にひろがる伊波島随一のビーチ。
舗装された坂道をくだればまっ白な砂浜にでる。
あいかわらずビーチにはかぞえるほどしかひとがいない。
わたしはやどかりさんやいいかたちの貝がらを横目に波打ち際をぽてぽてとあるきつづけた。
傾きかけた太陽が水面をきらきらとかがやかせている。
きょうはあの居酒屋さんでよるごはんをたべよう。
それから３６０度ぜんぶにひろがる絵はがきどおりの星空をながめよう。
手をのばすことがこわく感じるくらいの星の数にはもうおびえない。
大丈夫。
わたしはここにいる。
＊
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作者名：ひか | 作成日時：2016年1月19日 17時
