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＊
「…まぶしい」
右手でにぎりしめているさんぴん茶のペットボトルから水滴が地面におちる。
左手でつかんでいるまっピンクのスーツケースには、１週間ぶんの着替えをつめこんできた。
空はいつでもみあげたところにある。
でも、この島の空は東京とは全然ちがう。
どこまでもひろがる、絵の具でぬりつぶしたような青空。
ソフトクリーム型のまっ白な雲。
きらきらとひかりをふらす太陽。
じわじわとにじむ汗が目にしみる。
＊
片道ではなくちゃんと帰りの航空券も用意した。
れっきとしたわたしの夏やすみ。
空港から船にのるために離島ターミナル行きのバスにのりこむ。
ゆったりすすむバスの窓のそとにはさわさわとゆれるさとうきび畑。
シーサーが見守る台風にもまけない民家。
内地ではみなれないのみものがならぶ錆びた自動販売機。
店主のてづくり感まんさいな食堂の看板。
舗道の花壇にはハイビスカスが咲き乱れる。
「帰ってきたよ」
だれにでもなくわたしはひとりちいさくつぶやくいた。
＊
離島ターミナルにつくと、わたしはまず伊波島への船のじかんをしらべた。
「また１時間後か」
カウンターの壁にかかったとけいで時間を確認して、苦笑いしつつそのまま乗船券を買う。
そして、スーツケースをころがしながらロビー内にある売店を兼ねたカウンターしかない食堂へあしをむけた。
あのときとおなじ席にすわり、あのときとおなじ沖縄そばと生ビールを注文する。
きょうはきいろい歓声はきこえない。
「どうか、きこえませんように」
わたしは目のまえにひろがるエメラルドグリーンの海へねがった。
＊
翔くんと潤くんはわたしにかたく約束してくれた。
「絶対に島が特定されないようにする」
「島のひとたちのプライバシーと自然はかならずまもる」
「ロケハンは最少人数にする」
「自分たちの身バレもできるかぎりふせぐ」
そして、さいごにもうひとつ。
「とびきりのステージにする」
＊
「あー、うまかったー」
結局やることはおなじだ。
おそばのスープまでのみほしたわたしは３年まえとなにかかわったかな。
つよく、なれたのかな。
お会計をしようと立ちあがり、いすのとなりにおいていたスーツケースに手をのばす。
無意識にテーブルの下をのぞきこんでみるけれど。
そこはあたりまえにもぬけのからで。
もうあのころの智くんはいない。
＊
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作者名：ひか | 作成日時：2016年1月19日 17時
