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＊
そのあとも智くんは『こんど』を連発した。
喜納島はあんまりいられなかったからこんどまたいきたい、とか。
Aが海きれいだっていった与那覇島もこんどいってみたい、とか。
ゲンさんや奥さんにもこんどあいにいってみよう、とか。
Aのしってるほかのおすすめののみ屋にもこんどいきたい、とか。
その『こんど』には『こんどいっしょに』っていう意味があきらかにふくまれていて。
わたしはあいまいに笑ってうなづくしかなかった。
そして、会話の内容に違和感があることにわたしは早々に気がついてしまった。
あたりさわりのないことしかはなしていないのだ。
たしかにいまさらなのかもしれない。
声がでなくなって宮良島まできてしまったこと。
翔くんとのこと。
わたしのからだにのこされていた赤くて青黒いまだらもようのこと。
そして、東京に帰ってきてからのこと。
なにひとつふれていない。
きもちよさそうにとなりでソファに身をうずめている智くんとのあいだに、わたしは透明な壁があるように思えてならなかった。
その壁は…
わたしのせい？
それでも智くんは『こんど』っていう。
でも、その『こんど』はぜんぶまぶしくかがやいていた夏の島へに対してだ。
こわくなった。
ことばがなくても。
くちにださなくても。
きもちはつうじていたから。
ねえ、いまもなの？
智くん。
きっと…
そうだよね。
ごめんなさい。
じゃなくて、
「ありがとう」
わたしは手にしていたグラスをテーブルに置くと智くんの右手をとった。
すこし骨ばっていてしゅっとのびたゆびがきれいな智くんの手。
…だいすきだった手。
「智くんのこの手があったから」
ソファからゆっくり半身をおこした智くんの肩ごしにみえたのは東京のよるの街。
海はない。
星もない。
波の音もきこえない。
ここは東京なんだ。
智くんはわたしの左手を両手でつつむ。
そして、ゆび１本づつにていねいにキスをくれた。
「おれ、この手にすくわれた」
いつのまにかうるんでいた智くんの瞳にわたしがうつった。
わたしはくちびるをかみしめて、ただただうなづくことしかできなかった。
だけど。
ちゃんとつたえなくちゃ。
ここまできたんだから。
たすけてくれたみんなの顔が目のまえにうかぶ。
あのときことばでいえなかったこと、きょうはちゃんとことばでつたえるから。
＊
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作者名：ひか | 作成日時：2016年1月19日 17時
