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＊
泣きたいときは泣けばいい。
がまんすることなんかない。
ひたすら泣けばいい。
気がすむまで泣けばいい。
たとえなみだの意味がわからなくても。
＊
わたしたちはしばらくのあいだドアのまえから１歩もうごかず、お互いをだきしめていた。
まるでこの数ヶ月をうめるかのように、からだをぴったりとすきまなくよせあって。
わたしの髪やくびすじ、背中や腰をなでる手がやさしくて。
たまにふれあうほっぺたどうしがなつかしくって。
ちゃんとここにいるよっていってくれているみたいで。
智くんはあの日からなにもかわってなかった。
が、そんなおセンチなきぶんにひたっていても現実はうまくはいかない。
ぐううう
おなかがなった。
…そりゃそうだ、ランチから１０時間くらいなにもたべていない。
といってもタイミングわるいでしょ！！
わたしのおなかよ、空気よめっつーの。
まいったな。
きこえたかな。
わたしはいっそなにごともなかったかのようにすませてやろうとも思ったのだが。
「んふふ」
智くんの笑い声でわたしの空腹がばれてたことがわかった。
うぐぐ、はずかしい…
「…感動の再会中にごめんなさい」
わたしはそっとからだをはなして智くんの顔をみた。
まゆげを八の字にさげてくちもとをかるくゆるめてふにゃりと笑うその顔を。
広告のポスターじゃない。
雑誌の表紙でもない。
こんなに近くにいる。
あのころみたく、わたしに笑いかけてくれる。
しかも。
わたしたちはいま、はなすことができるんだ。
智くんの手がのびてきてわたしの目もとをぬぐってくれた。
「よし！！
じゃーまずはビールだな！！」
いつもはわたしからさそっていたごはんの合図を智くんがはじめて声にだしてくれた。
わたしは鼻をすすりながら、
「うん、ビールだね！！」
と、ここであってからはじめて智くんに笑ってみせた。
＊
「めっちゃ東京ってかんじ…」
窓辺にたつとわたしはぼそりとつぶやいた。
角部屋のため東京の夜景をぐるりとみわたすことができた。
リビングルームとベッドルームが独立しているこの部屋は、よくわからないけれどたぶんスイートなのだろう。
ルームサービスでたのんだシーザーサラダをほおばっていた智くんにわたしはきく。
「智くん、いくつだっけ？」
「ふあ？ 歳？
Aとひとつちがいだっけ？」
わたしの人生ってなんだろう。
＊
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作者名：ひか | 作成日時：2016年1月19日 17時
