【実況者】手を繋いで帰ろう【uszw】 (ページ29)

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がっくりと肩を落とす俺の左手には、野菜が詰められた袋が1つ。

鼻歌を歌っているAの右手には、キムチ鍋の素が入った袋が1つ。

『そんなに落ち込まないでよー今度は鶏鍋にしてあげるからさ』

「今日鶏鍋の気分だったんだよ」

大人げなくぐちぐち文句を言う俺を見て、Aが腹を抱えて大笑いしている。

すっげぇムカつく。

すっげぇムカつくけど、心のどこかで"楽しい"と思ってしまうのは俺だけだろうか。

これが俺たちの在り方だと安心するのは、俺だけだろうか。

『ねぇ』

「ん？」

『そういえば、昔は手繋いで帰ったよね』

「……そうだっけ？」

『そうだよ、こうやって』

Aが近づいてきたかと思えば、俺の右手を控えめな強さで握る。

先程まで風に晒され冷たくなっていた手が、少しだけ暖まったような気がした。

『懐かしいなぁ』

目を細めるAの視線を追うと、2人の足元から伸びる長い影。

手と手で繋がれ1つとなった影は、確かにどこか懐かしさを感じる。

『小学生の頃さ、手繋いでるところを同級生にからかわれてから、うっしー繋いでくれなくなっちゃったもんね』

笑っているのか泣いているのかわからない声色に、心配になってAの方を見る。

『悲しかったんだよ、子供ながらに』

風に靡く髪から覗いた横顔は、今にも泣き出しそうな子供のようで。

しかし、次に覗いた時には、悲しさを我慢する大人の顔をしていた。

「じゃあ、もう離さねぇよ」

『えっ？』

目を丸くしたAをじっと見据える。

『その言葉、信じちゃうからね』

と。

そう言ったAの顔が赤かったのは、彼女を照らす西日のせいか。