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案の定、4人揃ってもスムーズにゲーム収録が始まるはずもなく。
ここからしょうもない言い合いや雑談になりそうな流れだ。
はぁ、こっから長くなるぞー
なんて、軽く決心というか気合いを入れ直していた時、
『うっしーごめん、宅急便が……』
ヘッドホン越しからAの声が聞こえ、思わずミュートボタンを押した。
「誰?」「女?」とざわざわし始める声を無視して、俺は勢いよく立ち上がる。
「おまっ……部屋に勝手に入ってくるなって……!!」
思っていたより大きな声量で怒ると、ぽかんとしていたAの顔からみるみる血の気が引いていく。
『あっ……ごめなさっ……宅急便来たっから……でも、あっ、えと……ごめんなさいっ』
視線をさ迷わせ『ごめんなさい』としか呟かなくなるAに、なにか異様なものを感じ思わず駆け寄った。
「俺もごめん、びっくりして思わずおっきな声だしちゃって」
『ごめんなさっ……ごめんなさい……』
瞳に涙を貯めるAに俺の声は届いているのか。
俺ではなく別の"何か"にひたすら謝っているように見える。
「A、こっち向いて」
Aの顔を優しく両手で包みこちらを向かせると、一瞬ビクッと肩をはね上げたあと、焦点があった。
やっとAと目が合った。
「A聞いて、俺も怒鳴って悪かった。今度から宅配来た時は出てもらえる?あとノックしてもらえると助かる。いい?」
普段よりも落ち着いた声を意識して問いかければ、涙を垂れ流したAは静かにこくんと頷く。
去り際に、
『本当に、ごめん』
と小さく呟き、部屋の扉を静かに閉めた。
今起こった出来事を上手く消化できないまま、とりあえず戻らなければとヘッドホンを装着し、ミュートを解除する。
ガ「あっうっしー戻ってきた」
キ「おいおいおいおい、もしかして彼女かよー!!!」
レ「黙ってるなんて水臭いぞ!」
直ぐに聞こえてくる低レベルな茶化しに、いつもなら同じノリで返せるのに。
今はそれが上手くできない。
会話にまざらなければと頭では理解しているのに、
Aの謝る声と顔が
いつまでも焼き付いて離れない。
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作者名:あお | 作成日時:2022年3月1日 18時