検索窓
今日:4 hit、昨日:34 hit、合計:9,072 hit

8話 本音はいらない ページ12

.





実況収録を終え部屋を出ると、出迎えたのは整理されたリビング。

ベランダでは洗濯物が風に揺れ、食卓には昼飯であろう焼きそばが出来ている。



『ナイスタイミング。お昼できたよ』



「……おー」



今朝、『家事ぐらいやるよ』と言ってくれてはいたけど、まさかここまで完璧にこなされているとは。

予想外、と言ったら失礼だが、予想を遥かに上回る出来に、感嘆の混じった返事が零れた。

最初は不安だらけの同棲生活だったが、Aが家事を担ってくれるなら、俺は実況に専念出来る。

Aも住む家を確保出来てる訳だし、これはお互いにwin-winの関係なのではないだろうか。



「……あれ?今日って水曜だよな?」



『うん、そうだよ?』



「お前仕事は?」



ダイニングチェアを後ろに引いた時、ふっと疑問が過ぎる。

そうだ、確かAは広告代理店に勤めていたはず。

ゲーム実況者の俺が家に居るのはともかく、Aは俺の家で家事なんてしてる場合ではないのではないか。



『あぁ、それならご心配なく。溜まってた有給を消化して、今週は休み貰ってるから』



「失恋休暇ってとこ?」



『まぁ……そんな感じ?急に休み貰っちゃったし、会社には悪い事したけど』



椅子に腰掛けたAは、顔にかかった髪を耳にかけながら答える。

という事は、Aがこんな風に俺の家で過ごしてくれるのは、最大でも日曜までという事だろうか。



「あのさ、」



"仕事辞めてここにずっと住めば?"



と、不意に口から出そうになった言葉を慌てて飲み込む。



『……ん?どうしたの?』



「いや…………昼ご飯、ありがとな」



『うん?どういたしまして?』



不思議そうに俺を見るAに「冷める前に食べようぜ」と声を掛けると、まだ腑に落ちていないであろう彼女はこくりと頷く。

香ばしいソースが香る焼きそばを啜りながら、先程言いかけた台詞に自分自身が驚いていた。

余りにも、俺に都合の良い台詞。

単なる冗談や思いつきならまだしも、内心本気でそうなればいいのにと思ってるからタチが悪い。

それに、

Aに断られでもしたら……

そんなつもりはないと出ていってしまったら​……

悪い妄想ばかりして、勝手に一人不安になる。

本音を伝えて最悪の状況になるぐらいなら、

俺はいつまで続くかわからないぬるま湯に浸っていたいんだ。

9話 深夜の飲み会→←.



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.5/10 (35 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
92人がお気に入り
設定タグ:実況者 , 牛沢 , TOP4   
作品ジャンル:恋愛
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:あお | 作成日時:2022年3月1日 18時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。