歪情 (ページ4)

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2 - Hokuto side ページ4

yg「それだけじゃない、深夜に真っ暗な裏山を何も無しで歩くなんて出来ると思う？」

資料を読む限り外灯は一つも無いことが分かった。
団地のすぐ裏とはいえ、木々で生い茂った裏山にまで部屋のライトの光が届くとは到底考えられない。

hk「スマホのライトで辺りを照らせば良いんじゃないですか？」

yg「そうだね、当時はまだガラケーかな。」

hk「でも資料を読むと男性の所持品に携帯も、何か他にあてになりそうな物も含まれていないですね。」

yg「そういうこと。」

「もう読んでたの、流石だねえ」と嬉しそうに頷く髙地さん。
褒められるのは素直に嬉しいので「どうも」と微笑み返した。

hk「真っ暗な山の中をライト無しで一人で歩くなんて、到底無理だし不自然ですよね。」

yg「だとすると？」

hk「男性は一人では無かった、つまり他に人がいた。」

yg「ということになるよねえ。」

髙地さんがアイスコーヒーが入っていたグラスを2つ手に取り立ち上がった。
どうやらもう一杯頂けるみたいだ。

yg「まぁとにかく、不自然な点がいくつかあって、俺の父親は捜査が切り上げられた後もずっと単独で調べ続けていたんだよ。」

hk「単独でって、そんなこと出来るんですか？」

yg「組織としては出来ないけど、個人的に調べるくらいは出来るさ。」

hk「あぁ、なるほど。」

yg「まぁ通常業務ももちろんあったから、空いた時間で事情聴取をするくらいしか出来なかったみたいだけど。」

「はぁい、もう一杯どうぞ」と湿ったコースターの上にグラスを置く髙地さん。
ちょくちょく出てくる彼の間の抜けた、いや、ほんわかした話し方にはまだ慣れない。

hk「事情聴取って、目撃者とか疑いのある人っていなかったんじゃないんですか？」

yg「目撃者は確かにいなかった、それに捜査では疑いのある人も浮上してこなかった。……でも父親は捜査当時からある人を疑っていたらしい。」

髙地さんは資料の「親族」の欄を指さした。
どうやら妻も子供もいなかったみたいだが、唯一甥だけは記載がされていた。

hk「田中……これ下の名前何て読むんですか？」

yg「じゅり、樹って書いて田中樹。」

hk「おぉ、キラキラネーム。」

言った直後、キラキラネームの定義に自信が無くなり、発言を取り消そうかと思ったが、今更感が強いのでそのままにしておいた。

少なくとも多くの人が一発で読めないことは確かだ。