歪情 (ページ19)

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課長 - Hokuto side ページ19

yg「いやー、何とかお話が聞けて良かったよ。」

京本宅を出て、本日3回目の乗車。
長いこと話していたのか、外はすっかり日が沈みかけていた。

hk「あの、ずっと聞きたくて仕方がなかったんですけど。」

yg「なぁに？」

hk「何でさっきあんな急に話し方変えたんですか？」

傍から見て不自然だったというか、歳相応じゃなかった。
あの子供みたいな喋り方は一体何だったのか。

yg「あれは会ってもらう為に変えたんだよ。」

hk「あんな子供っぽい間の抜けた喋り方？」

yg「うん、だって彼女息子が行方不明になっちゃったから。旦那と自分だけで相当寂しかったと思うよ。」

hk「でも父親曰く親子関係は良くなかったんでしょう？」

yg「当時訪問していた父親にはそう映ってたみたいだね。まぁその時は事件直後で彼女も動揺もあって何かと拒絶しちゃったり、息子への愛が無さそうな態度を取っちゃっていたのかなって。」

それであんな子供っぽい態度をとって情に訴えかけた訳か。
そもそもよくそんなこと思いついたな。

……やっぱりこの人、メンタリストか？
しかも当たっていたから尚更怖いんだけど。

hk「でもそんなのあくまで想像に過ぎない、もし外れていたら……。」

yg「そしたら会えなかったでしょうねぇ、試したら上手くいく可能性もあった訳でしょ？」

彼は「その可能性に賭けてみたら大当たり」とにこにこ笑顔で嬉しそうに言った。

なるほど、少しでも上手くいく可能性があればその可能性に賭ける……か。
なんてポジティブな考えなんだ。

yg「当たったから良かったけど、外れたら俺すっげぇ恥ずかしい奴だったかもなー。」

hk「たぶん通報されてましたよ。」

yg「警察だからそれは勘弁。」

hk「警察じゃなくても駄目ですってば……本当にもう。」

呆れたように溜息をついて見せるが、内心彼の考え方や言動の一つ一つを見ていて素敵だなと思いつつある。
まだ出会って一日も経っていないが、既に彼の人柄の良さがひしひしと伝わってきていた。

yg「この後空いてる？」

hk「この後？署に戻ったら資料を読もうかと。」

どうしても早めに読んで把握しておきたい。
そうしないと気が済まないタチなのだ。

yg「何言ってんだよ、初日なんだから食いに行こうぜ。」

hk「いやでも、」

yg「ハンドルは俺が握ってんの、決定権は俺。」

hk「えっ、ちょ、署は左ですって…………あ。」

車は右ウィンカーを出して右折レーンへと入っていった。