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「ふーん。それで逃げ出して来ちゃったんだ」
「ええ……情けない話ですが」
私はうつむいた。情けなさすぎて笑える。滑稽だよこの根性なしめ。いっぺん誰かにしばかれてしまえ。
カルマは笑いながら紙パックのジュースを私に差し出す。イトナの倉庫から帰る途中、ばったり会ってしまったのだ。
当然逃がしてくれる気はないようで、こうして公園のベンチでさきほどの一件を白状させられる。
「葵ちゃんてマジメだねぇ」
私の気持ちなどいざ知らず、カルマはケラケラ笑った。カルマは真面目と正反対の性格に思える。私の気持ちなんてわかるもんか……。
「だってちゃんとしたいじゃない……こういうことは」
「んー。葵ちゃんの考えも間違ってはいないと思うけどさ、なんかこう……もっと軽くとらえてもいいんじゃない?」
「軽くって……それじゃああんた達に悪いじゃない」
「俺は別にいいよ? 一回どっちかと付き合ってみてさぁ、気に入らなかったら乗り換えればいいじゃん」
「な、なんて非道な……」
思ったまま口にすると、カルマはまた笑った。
「でもそんなもんだと思うよ? 何が正しいかなんて、やってみないとわかんないじゃん。ま、俺と付き合ったら絶対放さないけどね」
「う……」
カルマはからかうように微笑んだ。
言葉を返せずにいると、その表情を崩してストローに口をつける。
「でもさ、告白されてる男に恋愛相談なんて、葵ちゃんも度胸あるよね。そりゃイトナだって我慢できないわ」
「え、そ、そうなの?」
「そりゃそうだよ。俺だって何するかわかんないよ?」
「変なこと言わないでよ……」
そっと距離を置くと、カルマは空を仰いで笑う。そんな姿を見て、何も感じない自分に気がついた。今までならば、少し距離が近いだけでめちゃくちゃ緊張してたのに。
そういえば、私ってカルマに告られてるんだよね? なんでこんなに平然としていられるんだろう?
……なんで、イトナにはドキドキして……
「もう暗くなってきたね」
カルマが空を見上げて言った。つられて空を仰ぐと、いつのまにか冷えてきて、日は沈みかけている。
カルマは空になった紙パックをゴミ箱に投げ入れ、立ち上がった。
「帰ろっか。今日も送るよ」
「……うん」
私は重い腰を上げた。
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るーちゃん - とても良かったです!天才ですね! (2016年6月13日 20時) (レス) id: 05d2391dee (このIDを非表示/違反報告)
銀龍(プロフ) - 夏凪さん» ありがとうございます。いつもいつも一番に応援してくれたのは貴方でした。貴方様も頑張って下さい。 (2015年7月24日 18時) (レス) id: ba8182eb33 (このIDを非表示/違反報告)
夏凪(プロフ) - 完結おめでとうございます!もう、貴方の文に心を奪われました!責任とってください!←今までも、これからも私は貴方の大ファンです!これからも頑張ってください! (2015年7月23日 19時) (レス) id: 44b9b683a2 (このIDを非表示/違反報告)
銀龍(プロフ) - きの子さん» 初期から熱烈な応援ありがとうございました。貴方様の名前は忘れません。ご愛読ありがとうございました。 (2015年7月22日 19時) (レス) id: ba8182eb33 (このIDを非表示/違反報告)
銀龍(プロフ) - 氷翠さん» 応援ありがとうございました。最後まで読んでいただき光栄です。 (2015年7月22日 19時) (レス) id: ba8182eb33 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:銀龍 | 作成日時:2015年6月4日 21時