ハンカチとブラックコーヒー【伏黒恵】 (ページ2)

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目の前のドアが開き、電車と駅がつながる。

電車と駅の間隔が少し遠かったので、軽くジャンプするように降りれば、スカートがひらりと美しく弧を描いた。

改札へと向かう階段が少し離れたところにあったので、人混みをすり抜けるように歩いていった。

そう、そのときだった。

「なあおい！ハンカチ落としたぞ！」

私のこと？と思い振り向くと、先刻の電車内で目があった彼が立っていた。
私が落とした青緑色のハンカチを手に持って。

「あ、ありがとうございます」

「いや、こっちこそ急いで声をかけたものだから、乱暴ですみません」

「そんな。助かりました」

ぺこり、と彼に向かって頭を下げた。
このまま彼と向かい合っているのも変なので、身を翻し、改札へと歩いていった。

かっこいい人だったな……。

キリッとした目に、スラリ通った鼻筋。毛穴なんて一つもないほど整ったきれいな肌。フサフサな長いまつげ。
あと、ウニみたいなツンツン頭……、いやウニみたいなんて失礼か。

美人って言葉がしっかり来るけど、上背もあったし、声も低かった。

ほんとにかっこいい＿＿いや、ハンカチを拾ってもらっただけの人にこんなこと考えるなんて、変態じゃん……！

ふるふる、と頭を揺らし、考えていたことをリセットする。

これが後に想い人になるなんて、私は知らなかった。