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負けてしまった。
甲子園まであと少しだったのに。
サヨナラ負け。
同点の九回裏、私が投手として登板した。
ツーアウトでランナーは内野安打で一塁にいる。
外野に飛んだ。
完全に打ち取った当たりだった。
けど。
外野手は、ボールを取り損ねた。
普段ならしないミス。
あと少しで甲子園というプレッシャーもあったのだろう。
一塁ランナーは足が速くてホームまで一気に走っていった。
ボールが内野に届いた頃にはすでにランナーはホームまであと少し、というところだった。
私はそれをただ茫然と見つめていた。
帰りのバス。
みんなが黙り込んでいた。
窓の外の、流れていく景色を見つめる。
なんで監督はあそこで私を起用したんだろう。
時々登板するくらいの私を。
どう考えても上策とは言えない。
「三日月」
名前を呼ばれて、びっくりした。
私のことを呼ぶ人なんて全然いないから。
見ると、隣の席に座っている先輩の藤崎蓮さんだった。
私に何かしてくることは全くなかった人だ。
「……はい?」
「……今日の登板の時、監督が言ってたんだけど」
―――三日月は投手としての才能もある。こういう時は抑えられるはずだ。
「って」
「……」
監督が、そんなことを……?
「あと、サヨナラは俺たちのせいだから。自信持って頑張れよ」
「……はい。ありがとうございます」
それは、最初で最後のチームメイトからのエールだった。
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作者名:月冴-tsukasa- | 作成日時:2023年3月22日 1時