君に出会えて【滝澤夏央】 (ページ17)

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その時はボールがよく見えた。

現実でそういうのはないと思っている人はたくさんいるだろう。

でも、本当にあるんだ。

ボールが妙にゆっくにり見えて、球種もわかる。

カァン！

宙に舞った白球は

ライオンズファンのまつレフトスタンドに消えた。

「ホーーーーーームラーーーーーン！
三日月選手、プロ第1号の、ホームランです！」

ファンの歓声とともにスタジアムDJの声が響く。

私はダイヤモンドを一周する。

ベンチで先輩方が拳を突き上げているのが見える。

一番後ろで夏央くんも笑顔を浮かべている。

ホームベースを踏んで、レオの人形をもらってハイタッチをする。

「Aちゃんナイスバッティング！」

夏央くんの嬉しそうな声。

急いで作り笑いを浮かべる。

色んな先輩方が話しかけてきてくれた。

その後、私のホームランが決勝打となり、ライオンズは勝利した。

球団公式のYouTubeにあげる動画を撮って高橋光成さんとお立ち台に上がった。

とにかく話すのが苦手だったから、どもってしまった。

写真を撮って、カメラのレンズにサインした。

レフトスタンドのほうまで歩いていく。

手を振った。

カメラのフラッシュや球場の照明で目が痛くなった。

ロッカーに戻る途中、球団職員さんに声をかけられた。

「三日月選手！ファンの方がボールを返してくださって……！」

渡されたのはボール。

私のホームランボールらしい。

「これ。その人に渡してください」

私はとっさにカバンから高校時代に使っていたバッテを出し、球団職員さんに渡した。

球団職員さんは頷くと走り去っていった。

何かしてもらったら、お礼をするのが礼儀でしょ？

ロッカーに戻ると先輩方がみんな声をかけてきた。

「ミカすごいなぁ！」

「ほんとにすごい！初物尽くしだね！」

「おめでとう！」

みんなが祝福ムードだった。

寮には古賀さん、夏央くん、私というメンバーで帰った。

そういえば、先輩たちの接し方が最初と違ったような……？