ふたつまみ ページ2
「いち、にい、さん……」
手を繋いで、じっと地を見つめる。
忌々しい地を、見つめ続ける。
いや、見つめているのは影だっけ?
そんなことを考えながら、隣から聞こえる楽しそうな声を聞き流していた。早く終われ、早く終われ。
何なのかは知らないが、こんな遊び、私は嫌いだ。あろうことか、地を見なきゃいけないなんて。
脳裏に過ぎるのは空。青い空。高い空。広い空。
そして、今はそれが何よりも怖い。
そもそも、高校生にもなって何やってんの、バカみたい。元気づけてるつもり?
いつもなら頼もしい幼馴染が、酷く恨めしく思える。
そんなことを考える自分は、もっと恨めしい。
「きゅう、じゅう! せーのっ!」
掛け声とともに勢いよく顔をあげる。カラリと乾いた青空に、ぼんやりと湿っぽい影が見えた。
「大成功! やったね!」
『かげおくり』
友達がやろうと誘ってきた遊び。
いきなりこんなことをして、なんの意味があるのだろうか。何も言えずに彼女を見つめる。
「凄いでしょ? 昔ね、本で読んだんだ」
だからなに?
冷たい声が出かかって、ちょっと泣きそうになった。
私、酷いやつだ。どうしようも無い。元気づけようとしてくれてるのに。
忌々しいはずの地に、崩れ落ちそうになる。
「大丈夫だよ」
なにが?なにが大丈夫なの?アンタに何がわかるの?私の恐怖がわかるって言うの?
「空も、地も、変わんないよ。見たでしょ? 私たちの影は、簡単にあそこまで飛べるの」
「……飛べる?」
「そう、飛べるの!」
顔を上げると、空の何倍も綺麗に笑う彼女がいた。
「きっと、きっと大丈夫だよ!」
涙がこぼれるのを必死に抑えた。泣いたら、彼女の笑顔も、清らかな空も、何もかもが見えなくなってしまうから。
空は高い、空は広い、空は怖い。
────でも、好きなんだ。
もう一度、空を見上げる。
さんさんと輝く太陽に、ゆっくりと手をかざした。
湿った影は、もうどこにも無い。
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影法師/惑う/きっと手が届く
影法師って言うか、かげおくりですねこれ……
空への恐怖で空を諦めかけた女性が、ちょっとだけ手を伸ばす話。
この後キャビンアテンダントになって大成功します。
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スピカ(プロフ) - あの作品…とても良いとは思っていたけどこんな風に小説化するとは…語彙力高い! (2019年11月12日 10時) (レス) id: 107a705257 (このIDを非表示/違反報告)
冴(プロフ) - なんか……素敵!どこがいいとは言えないです語彙力よ来い。面白いので頑張って下さい! (2019年10月27日 18時) (レス) id: cd880b444a (このIDを非表示/違反報告)
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