10 ページ10
.
砂浜を少し歩くと、慎太郎くんが緑のチェック柄のハンカチを取り出して、砂浜へ広げる。
「座って」
「あ、ハンカチ持ってるよ」
「いいよ。砂ついちゃうから」
「…ありがとう」
控えめにハンカチの上に座ると、慎太郎くんは満足そうに笑ってわたしの隣へ座った。
海は真っ暗で、水平線が見えないから空と海が一体になっているようだった。大きな月の光が海に反射されてキラキラしてる。
「よく海に来るの？」
「うん。俺海好きなんだよね。サーフィンで来たりもするし」
「え、サーフィンやるんだ。すごいね」
「いや、全然趣味程度だから。
Aちゃんは休みの日何してるの？」
「読書したり映画観たりするかな」
サーフィンのあとに言うのは気が引けた。あまりにもありきたりで、気恥ずかしかったけど、それ以外思い浮かばなかったのだから仕方ない。
慎太郎くんは「あぁ！」と何か思い出した表情でわたしの方を見る。
「Aちゃんの家のテレビ横の棚、本とDVDいっぱいあったよね！」
「あー、うん」
「すごい好きなんだろうなって思った！」
そう言った慎太郎くんは何故か嬉しそうな顔をしていて、不思議だったけどあたたかい気持ちになった。
慎太郎くんと話すといつもそうだ。あたたかくて、安心する。
「…海って、暗いとなんも見えないけど、すげー安心するんだよね」
体育座りで膝を抱える力を強めた慎太郎くんは、子どもみたいに笑う。
「目つぶって、深く息吸って」
慎太郎くんはゆっくり目を瞑って、息を吸って。わたしはその横顔を見つめながら、綺麗だなあって思った。
「静かに息吐いて、波の音だけに集中する」
ふうっと息を吐く慎太郎くんの横で、わたしも目をつぶって慎太郎くんが言った通りにやってみる。
吸って、吐いて。波の音だけに。
「波が寄せて、引いて。その音で心が全部洗われる気がする」
寄せて、引いて。
自分が海の中にいるみたいに思えて、目を開けると慎太郎くんがこちらを見ていた。少し恥ずかしくなって顔を隠すように前髪を整える。
「寒くなってきたし、そろそろ行こっか」
「うん。そうだね」
立ち上がってパンパンと砂を払う慎太郎くんに持っていた自分のハンカチを差し出す。「ありがとう」って笑って受け取ってくれた。
「洗って返すね」
「え、いいよ」
「洗って返すから、今度映画観に行かない？」
ね？と首を傾けて言う慎太郎くんに、わたしは頷くしかなかった。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 144人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「SixTones」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：誠沙 | 作成日時：2021年10月9日 0時
