夕凪を忘れた頃に (ページ6)

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「A、ちゃん？」

顔を上げると、ニコニコ笑う彼が手を振っていた。

こんなに背が高いんだ。
慎太郎くんと帰宅する人の忙しない姿が視界に飛び込んできて、自分が駅の真ん中で立ち止まっていることを思い出した。

「何してたの？」

「あ、いや」

花火大会のポスターに背を向けて必死に言い訳を考える。
こんな所で立ち止まってる人なんて側から見たらおかしいに決まってる。

慌てて握っていた家の鍵を慎太郎くんに見せて

「家の鍵忘れたかもって思ったら握ってた！」

と言うと、慎太郎くんはぽかんとした後笑ってくれた。

「あはは！Aちゃん面白いね！」

腹を抱えて笑ってくれる慎太郎くんに嘘をついたのがなんだか申し訳なくなる。

本当は違うんだよ、と思いつつ忘れなきゃいけない思い出たちが笑い声に吹き飛ばされるような感覚だった。

「慎太郎くんは？」

「あぁ、ちょっと調べ物しててその帰り！Aちゃんも？」

「うん、研究室行ってた。慎太郎くんもこの駅なんだ」

「そうそう！Aちゃんの家どの辺？

…あっ、ごめん！今の良くないよね、ごめん！そういうつもりじゃなくて、あ、いや、」

ニコニコ顔から一瞬であたふたし始める慎太郎くん。その様子に思わず吹き出すと、「ごめんね」と落ち着いた声で言った。

「大丈夫だよ、気にしないで。

わたしの家はコンビニの辺り！慎太郎くんは？」

「俺は神社のとこ。

もしよかったら、途中まで一緒に帰らない？」

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「でさ、ジェシーがいきなり英語で対応し始めて！

そのおじさんさっきまでめっちゃ怒りながらクレーム言ってたのに、ジェシーが流暢すぎて日本語通じないと思ったのか、大人しく帰っていったんだよ！」

「あはは！なにそれ！」

「それからジェシーがシフトにいる時は、その技使おうってみんなで言ってんだよね〜」

最初は気まずいかも、と不安だったのに、慎太郎くんの明るくて面白い話に夢中になっていた。

「あ、コンビニ。じゃあ、俺こっち曲がるね」

「うん。ここまでありがとう」

「散歩できた！逆に俺の話に付き合わせちゃってごめんね？」

「ううん、楽しかったよ」

お互いのぎこちなさに顔を見合わせてふふっと笑う。

「それじゃあ、またね。なるべく明るい道、帰ってね」

「慎太郎くんも気をつけて帰ってね」

慎太郎くんは一瞬びっくりしたような顔をした後、笑顔で頷いて大きく手を振った。

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