夕凪を忘れた頃に (ページ14)

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映画の日からなんとなく気分が下がっている。寒さが増してきて大学の木々も少しずつ色を変えている。

「Aちゃん」

「おぉ、ジェシーくん」

下を向いて歩いていたらぬっと目の前に現れたジェシーくん。イヤホンを外して「これから授業？」と聞くと、「そ！もうやんなっちゃうわ〜サウナ〜」と不思議なボケをかまされた。

スルーしてやろうかとも思ったけど、ジェシーくんの顔が面白くて思わず吹き出す。そんなわたしをみてジェシーくんは安心したように笑った。

「なんかあった？」

「ううん、なんも」

「そっか」

映画を観に行った日、帰り道でそっけなく借りていた緑のハンカチを返して、その後も逃げるようにさよならをした。ちょっと嫌なやつだったかもしれない。もやもやっと心に引っかかっていた。

「…今度飲み行こうよ。Aちゃん全然会ってくんないしぃ〜」

「行きたいけど別に会いたくなかったわけじゃないよ。ジェシーくんこそ、わたしと会おうとしてないでしょ！」

悟られないようにちょっとふざけて泣き真似をするとジェシーくんは特徴的な声で笑っている。

「そういえば、最近慎太郎と仲良いんだって？」

「あぁ、映画見に行っただけだよ」

「へえ〜いいね！」

どこから情報を入手したのか、ジェシーくんはわたしと慎太郎くんが出かけたことを知っていた。どうせ樹あたりが喋ったんだろう。

「…でもさ、なんか距離置かれてる？気がするんだよね」

「え？慎太郎が？」

もやもやした気持ちを抱えきれなくて、思い切ってジェシーくんに言ってみると、彼はぽかんとしていた。

不安になって大まかにあったことを話すと、ジェシーくんは悩み始めた。もしかしたらわたしが気に触ることでもしたのかな。それで一緒にいたくないって思ったのかも。
でも返ってきたのは予想外の返事だった。

「慎太郎はさ、Aちゃんのこと気遣ってると思うよ」

「え？」

「多分遠慮してるんじゃないかな〜。Aちゃんを嫌な気持ちにさせないように慎重なんだよ。
今度はAちゃんが誘ってみたら？」

「わたしから？」

「うん。ご飯に行ってみたかったら行こうって。観たい映画があったら観に行こうって。ね？」

たしかにわたしから言えば良かったのかな。わたしがあの時ご飯行こうって言えば言ってくれたかも。自分から誘うのは怖いけどとりあえず頷くとジェシーくんは「うまく行くといいね」って優しく言ってくれた。

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