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「お待たせ」


耳元で静かに囁く声に顔を上げる。
パソコンと睨めっこしていた体勢から伸びをすると、ぽきっと肩が鳴った。


隣に座った慎太郎くんは「集中してたね〜」と笑った。慎太郎くんの授業が終わるまで図書館で調べ物をしようと思っていたら、案外すぐに時間になってしまった。


「行こっか」


「うん」


今日はこの前、海に行った時に誘われた映画に行く日だ。大学も3年目になって、取ってる授業は少ないのに何だかんだ忙しくて、授業終わりに会うことになった。


「今日何観る?俺的にはこれとか、こっちのとか、Aちゃん好きそうだなーって思ったけど」


「すご、丁度そのふたつで迷ってた」


「実は俺、人の心読めるんだよね」


「じゃあ今何考えてるかわかる?」


「うーんとね、慎太郎くんかっこいー!」


「それにツッコミを入れるわたしの苦労をまず労ってもらってもいいかな?」


あははって大きな口を開けて笑う慎太郎くんとの会話は前回よりも随分砕けた感じで少し嬉しかった。ラインでやりとりしていたのが効いているのかもしれない。


映画は恋愛ものかアクションものか迷っていたけれど、アクションもののチケットを買った。恋愛ものを男女ふたりで観るほどの仲ではないし、なんとなく慎太郎くんはこっちの方が好きそうだったから。


チケットは「俺からの労いってことで!」と慎太郎くんがわたしも分まで払ってくれた。


「結構最後の方感動しなかった?俺、ちょっとうるってきた」


「わかる。最後であんないい展開になると思わなかった」


アクション映画を選んだのは大成功だったようで、お互い大満足で映画館を後にして、適当に入ったカフェで映画について語り合う。


「終わり方的に続編ないかな!?」


「続編あったら絶対面白そう!」


「え、あったらまた観に行こうね。俺置いて観にいかないでよ!?」


「うん、わかったよ」


気がつけば時刻は7時を回っていて、空っぽの胃の中にカフェオレが入っていくのがよくわかる。10月にもなると外はもう真っ暗だ。


「…帰る?送ってくよ、コンビニまで」


「じゃあ、お言葉に甘えて」


慎太郎くんが聞いてきた言葉が、「ご飯食べてく?」じゃなくて、ちょっと気分が落ちた。


なんでだろう。ご飯を食べていくほどの友達じゃないと思われてるのがショックなのか、まだ映画の話がしたいからなのか、それともまだ慎太郎くんと一緒にいたいのか。
まだわたしにはわからなかった。



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作者名:誠沙 | 作成日時:2021年10月9日 0時

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