【HQ】会社の上司が黒尾鉄朗だった話 (ページ4)

今日:15 hit、昨日:10 hit、合計:5,638 hit

4 ページ4

・

「あー、A、部屋入って。」

てつくんの部屋へと通される。
いつもは研磨か私の部屋だから、すごく新鮮。

『改まっちゃってどうしたの？』

てつくんが首の後ろに手を置いて、気まずそうにしているのを見て私から切り出す。

「あの、俺、ずっとAの事が好きだった。」

え？てつくんが私を？

「いや、その付き合って欲しいとか今更そう言うんじゃなくて、」

てつくんは何も言わない私の機嫌を取るようにまくし立てる。

「や、その、自己満って言うか、最後にAに伝えなきゃ後悔すると思ったんだ。」

『てつくんありがとう。でも、てつくんのことそんな目でみたこと無かった…』

最後の最後にてつくんからの告白。
私がてつくんを幼馴染としか見てないことは、きっとてつくんも気づいてた。

「ごめん、気にしないで。」

部屋を出ていくように言われる。てつくんは決して笑顔とは言えない表情をしていた。

どうしよう。これでお別れとか嫌だ。

『ねえてつくん。もうちょっとだけ話したい。』

「なんだよ。ずっと幼馴染に片想い拗らせてた俺が可哀想か？」

てつくんが声を荒らげる。

『ごめんてつくん。そんなつもり無くて！』

我慢していたものが込み上げてきて、涙がこぼれそうになる。

『てつくん、私ね、好きとかそういうのよく分からないけど、てつくんとなら付き合ってもいいと思った。

でも私、海外なの。てつくんと研磨は聞いてこなかったけど、すぐ会える距離じゃないの。

遠距離恋愛なんてできる気がしないし、てつくんの大事な時期を邪魔したくない。

だからごめんね。幼馴染のままでいさせて。』

「A…。俺の方こそごめん。自分勝手に気持ち伝えて。

ずっと好きだった。多分、これからも。」

てつくんがそう言いながら私の肩を掴んで引き寄せる。
初めての空気感に思わず目をつぶった私の唇に、てつくんは静かにキスをした。

「ごめん、最後だから。」

私は、この時初めて余裕のない黒尾鉄朗の姿を見た。

引越し当日、お見送りに来てくれたのは研磨だけだった。
"てつくん、またね。"そう送ったメッセージの既読は、つかないまま。