Person ページ3
「っ、おい!」
手をAの方に必死に伸ばす。
届くはずもないのに。
トラックに勢いよくぶつかったAは勢いのまま吹っ飛んで、地面に転がった。
アスファルトをじわじわと染めていく赤。
白いトラックに付着した赤。
アスファルトの上で街灯の光を反射し、鈍く光る俺の指輪が、Aの近くに転がっていた。
ドクン、ドクン、と心臓が嫌な音を立てる。
辺りに広がる鉄の匂い、赤い液体。
何度も見て、触れて、とうの昔に慣れたと思っていた、人を"死"へと誘う匂いと色。
「っ………、嘘、だろ………?」
足が震え、手が冷える。
そうだ、
きっとそうだ、そうなんだ。
自分に暗示をかけ、震える足でゆっくり騒ぎの中心へ向かう。
「…………っ」
分かっていた。アイツなんだって。
アイツが轢かれたんだって。
アイツ、Aの白いマフラーがじわじわと赤く染まっていく。
「なぁ…、嘘だろ、Aっ……。嘘、だよなぁ?」
周りが止まる声も聞かず、俺はAの近くに駆け寄り、座った。
スーツが汚れることなんて気にならなかった。
「こんな指輪、どうして追いかけたんだよ。どうしてっ、どうしてだよっ!!」
問いかけてもAは返事をしない。
あぁ、きっと、もうAは———。
周りの惨状に反して、何故か安心しかったような顔をしているA
「何が、間違えてたんだ、なぁ、返事しろよ………」
救急車のサイレンの音が遠くから聞こえる。
涙でぼやけた視界の中、俺は冷たくなったAの手を握って自分の額に押し付けた。
「もし、過去に戻れたら———」
もし、過去に戻れたら、絶対お前を死なせないから。
だからお願いだ、神様。
瞬間、意識がフェードアウトした。
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作者名:蒼 | 作成日時:2022年6月17日 22時