Each thing ページ2
目の前に広がる惨状。
幾人もの命を奪い、とうに慣れたと思っていた赤い液体と鉄の匂いに眩暈がする。
キキィーーーッ!!
ピーポーピーポー……
この場にいる人たちが騒ぎの中心へと走っていく中、俺だけその場に立ったまま、ただトラックと倒れた人をぼんやりと見ていた。
「っ………、嘘、だろ………?」
震える足でゆっくり、ゆっくりと騒ぎの中心に向かう。
「おいっ、聞こえるか!?」
「お願い……、早く救急車……」
遠くからサイレンの音が聞こえる中、俺はようやく中心に辿り着いた。
騒ぎと赤い液体の中心で横たわっているのは、
白いマフラーを赤く染めた、
俺の、元カノだった。
話は数分前に遡る———。
「……A?」
「蘭、さん?」
夜の繁華街。
見覚えのある女に、思わず話しかけてしまった。
案の定、相手はよく知った驚いたような顔を見せ、よく知った声で俺の名前を呼んだ。
「久しぶりだね、元気だった?」
「あぁ、まぁな」
甘栗色の髪は少し伸びて、白いマフラーと一緒に風に靡いていた。
「…………なんで、ここにいるんだよ」
もう二度と会わないと思ったのに。
「………、妹が会社の飲み会で潰れちゃったらしくて。妹の同期の人から連絡があったんだ」
困ったように、そして何処か悲しそうに笑うA
「まあ、俺になんて会いたくないだろうし、俺も会いたくなかったワ」
皮肉を込めて笑うと、
「そうだよね、じゃあ私行くね」
なんて。
お前はそのまま俺の横を通り過ぎていく。
自分から突き放したのに、どうしようもなくその声をまだ聞きたくて。
「待てよっ、」
と走り出した俺をみて焦った顔をするお前。
ドンッ、と俺が誰かとぶつかり、ポケットに入れていた指輪が落ちて転がる。
「あっ……」
「…!!」
瞬間、Aは指輪を追いかけて走りだした。
「っ、おい!そこの嬢ちゃん危ない!!」
「キャアアアア!!避けてッ!!」
キキィーーー、
ドンッ!!
目の前に迫ったトラックにも気がつかないで。
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作者名:蒼 | 作成日時:2022年6月17日 22時