episode：9 ページ11
がたっと立ち上がった轟くん
「いよっしゃぁあ」
両手でガッツポーズをして喜びを表す轟君の姿は初めて見た。
周りからは拍手喝采である。私の味方はいなかった。
スリっとナチュラルに手を絡ませてくる。再び迫る真剣な顔。
「キス、していいか？」
サイレントキャーが聞こえてくる。絡まった指がいやらしく手のひらをさする。もう一つの手が、私の座っている椅子に添えられる。
「だめ」
「だめじゃない」
さっきからなんなのこの押しの強さは。さっきから拒否しても無駄だと教え込まれていく。椅子にあった手が今度は髪の毛に差し込まれる。何度か梳いたかと思うと、目隠しの留め具をパチンと外した。交差する視線。
「なあ、鎖渡」
「やだ」
「やだがいやだ」
「だめ」
「だめがだめだ」
「っ〜〜」
スリっと頬を撫でる親指。もうこの空間が限界だった。
こくりと頷いた。と同時に散々待てをさせられた犬のように食らいつかれる唇。
周りの音が聞こえない
ゆっくり離れる唇。
「可愛い」
優しい表情でそういう轟くん。きっと私の顔は真っ赤なんだろう。すりっと頬を撫でる。再び近付く顔にとっさに片手を轟くんの口を覆う。
「も、やだあ」
これ以上は羞恥で死ぬ。涙目で私は必死に訴える。目をぱちくりさせていた轟くんの目がすっと細くなる。それにぞくぞくとした何かが走る。捕食者の目だ。ゆっくりと離れていく轟くん。
私、想像以上にやばい人と付き合っちゃったのかもしれない。
「鎖渡」
「ナンデショウカ」
「好きだ」
目隠しの手が狂った。
やばい。こんな感情駄々洩れ状態学校行ったら確実に死ぬ。
「轟くん」
「なんだ」
「学校じゃ付き合っていることは内緒にして。それが条件」
「分かった」
すんなりと許可が取れたことに驚いた。さっきまでの押しの強さが噓のようだった。
「まあまあ鎖渡ちゃんの彼氏さん？？あらあらまあまあ」
きゃーと悲鳴を上げる男の先生。恥ずかしくて死にそうだった。
「あんなに里親拒否していたのにまさか恋人だなんて」
「里親拒否？」
「ええそうなのよ。この子。どんなお家が来ても私にはもったいないって」
「先生」
私が抗議の声を上げると先生がごめんねと黙ってくれた。そのまま轟くんを見送る。
その時不意打ちにキスをしてきたことに私は反応できなかった。
「轟くん・・・ねぇ」
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作者名：あおい | 作成日時：2023年4月15日 21時
