Adagio2【プリンシパル番外編 SVT】 (ページ5)

今日:3 hit、昨日:29 hit、合計:80,091 hit

16 ページ5

「好きだよ。」

死ぬかと思った。あんなに歌には色々な言葉が出てくるのに、大事な時にはこんな、単純な言葉しか出てこないなんて。

『……嘘』

「お前が何に悩んでて、何が辛いのか全部は理解できないけどただオレがお前を大事に思ってることは知ってて欲しい。」

ずっと皺を寄せてた眉間が、その言葉でふっと緩んだ瞬間、コップ一杯に入った水が溢れる様に涙が両目から伝った。

「…困らせた？」

手は繋いだまま、空いた方の右手で涙をそっと拭った。彼女は首を振って「違う」と呟いた。

『…ずっと、どうしたらいいか分からなかった。バレたら、私はまた辞めろって言われるかもしれない。

自分の立場を分かってるからこそ、簡単に言い出せなかったの。』

時々、上を見て必死に耐える姿があまりに痛々しくて、静かに頷くことしかできなかった。

『だから、せめて仕事ではSEVENTEENのウジのパートナーでありたくて編曲だけじゃなくて作詞作曲も勉強してた。
私も0から1を生み出す側になりたかった。』

「0から1を、」

『バカみたいって思うでしょ。でも、私にとっては大事なことだった。』

「オレが昔から、曲が出来たら1番にお前に見せて聞かせてたのは何でか分かる？」

『……』

「それが良い曲を作る為の最善だから。
昔から、聴かせた時の反応でどうしたらいいか分かる。

オレは…グループの為にこの役割を担ってて曲を作ってる。その為に必要なことをしてるだけ。お前のことが好きだから特別扱いしてるわけじゃ無いよ。」

まあ、全く無いと言われたら嘘になるけど。

目を真っ赤にして、グスグス言いながら問いかけるAの姿を見て、なんだか言い表せない感情になった。なんというか、いや、庇護欲…？まずいまずい。
ちょっと前までゴリラだのなんだのイジってたのにゴリラのゴの字もない。

『後は…………っ』

話残すことないか促そうとしたところで思いっきり突っ込んできた。右手を後ろについて危うくソファに倒れそうなところを耐えた。首に腕が回ってAの金髪が頬に触れる。
左手で彼女の背中を支えた。

初めてじゃない。彼女を抱き締めるのは今までに何度だってあった。一位を取った時、誕生日、曲が出来た時、数えきれないくらい。

それとはまるで違う感覚。あんなハイタッチして引き寄せるようなものじゃなくて、隙間が無くて、もっと温度が高い。