初恋ディストラクト * Kei Inoo * (ページ10)

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予想よりもずっと、水族館に来ている人は多かった。特に子ども連れが。メインである水槽が見えないほどの人、人、人。

「おお、すっげー！」

これじゃあ魚が見えないなぁ、と思っていると、隣から聞こえてきたのは、なぜか歓声。

「ここのデザイン、俺好きかも」

「……魚じゃないんですね」

観点ズレてるなぁと思ったけれど、そういえばこの人は建築学科だったな、と思い出した。

目をきらきらさせているところなんて、水族館の中のサメに夢中な子どもたちと同じ。

ワックスで少し遊ばせた髪の毛はいつもより大人っぽいのに、そのギャップがどこかおかしかった。

「何笑ってんだよ、こら」

「いたっ、」

ぺちん、とおでこを叩かれた。

叩かれたところが痛い。でもそれだけじゃなくて、じんじんする。

どきどき速くなる心臓の音も一緒に抑え込むように、おでこに両手を当てた。

「やっと水槽見えてきたー」

ゆらゆら、上から差し込む光に揺れる水面。大きかったり小さかったり、いろんな色の可愛い魚たちが、すいすい泳いでいる。

あまりにも綺麗で、思わずため息がこぼれた。

薄暗い照明に浮かび上がるここを、ずっと見ていたいと思った。そうすればなんとなく、好きだという想いも、忘れられる気がして。

「綺麗……」

「ね。綺麗だよね」

そう言いながら大きな水槽を見上げる彼は、もっと綺麗だと思った。そんなこと、絶対に言えないけれど。

人の波に飲まれそうになりがら、先へと進む。

迷いそうになったとき、いつも探してしまうのは、すらりとした伊野尾先輩の後ろ姿。