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伊野尾先輩に元気がないこと。それにはもう前から気付いていた。
ただ、それはなんとなく、気付いてはいけないことのような、言ってはいけないことのような、そんな気がして。
でも、昼下がりに訪れた空き教室で。先輩があまりにも悲しそうな顔をしていたから。つい、聞いてしまった。
「……先輩、つらいですか」
「ほぁ? ……なんで?」
「目が。先輩の目が、泣いてる、から」
私がなんで大学で心理学を専攻しているかといえば、昔から人の変化に気付けるらしかったからだ。
でも、人の心の動きを学んだって、まだ一年生の私には何もわからない。
いや、もしかしたら、大学院を終える頃になってもわからないままなのかもしれない。
目の前にいる彼の心は、私には知れない。
「……な、んで、そう思うの? 俺は、だいじょぶだから」
ほら、頬引きつってる。無理してるんでしょう? それくらいなら、今の私にだってわかるよ。
でも、伊野尾先輩がそう言うなら、私にこれ以上踏み込む権利はない。
それができるのは、伊野尾先輩の彼女、かな。
「心配してくれてありがと。……さっ、課題終わらせるぞー!」
「……先輩、ファイトです」
空元気なのは見え見え。それでももう、何も言わない。ほんのちょっとだけ、先輩の瞳に光が戻ったように感じたから。
「あ、私、飲み物買ってきます。先輩も、何か」
「やった。俺カフェイン入ったのねー」
「はーい」
ガラガラ、ピシャン。
ドアを閉めて、そのままそこにもたれた。ぐしゃりと胸元の服を握りしめる。このまま、心臓も一緒に潰れてくれればいい。
この恋が叶わないのは、もうわかってる。
この気持ちを消さないといけないのも、知ってる。
消したい、でも、消せない。……消したくない。
「……ありがとう、A。ああ、もう、……好きだばぁか」
ひとりになった先輩がつぶやいたこの言葉が、もし少しでも私の耳に届いていたなら。
未来はどんなふうに変わっていたのだろう。
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作者名:碧依 | 作成日時:2016年4月30日 23時