初恋ディストラクト * Kei Inoo * (ページ11)

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二、三時間くらいかけてすべての水槽を見て回った。

出口付近にあるお店で思い思いにお土産を買って、それから解散。

「あれ、お前らって帰る方向一緒なんだ？」

「そーなの。行きもばったり会ってさ」

「ああ、だから朝二人で来てたんだな」

自分の車で来たという薮先輩が、少し離れた場所で伊野尾先輩とそんなふうに話している。

近くの駐車場までは一緒に行って、そこで薮先輩以下、車に乗せてもらったという人たちとは別れた。

「……帰りもやっぱり人多いですね」

「だねー。次の電車乗れっかな」

駅のホームは朝同様、人で埋め尽くされていた。

いつもだったらイヤホンでシャットアウトしている騒音も、伊野尾先輩がいるからそういうわけにもいかない。

ざわざわ、がやがや。

ごちゃごちゃしているこの話し声が、どうにも苦手。まあ、得意な人なんてほとんどいないと思うけど。

「……A、大丈夫？」

「っえ、何が、ですか、」

「顔色、悪いよ」

たれ目を心配そうに細めて、先輩は私に視線を合わせる。今まで人ひとりぶんくらいあった距離が一気に縮まって、息が止まってしまいそう。

どうしよう。顔、赤くなってないよね。

こんなに近くでまじまじ見られたら、もしかしたらバレてしまうかもしれない。それがちょっと怖い。

心配してくれたことは嬉しいのに、

「大丈夫です。……大丈夫」

だけどそんなこと言えないから。目をふい、とそらす。ありがとうございます、大丈夫ですって、可愛らしく素直に言えたらいいのに。

列車到着のアナウンスが響いた。

やっぱり人は多かった。都会なのだから仕方ないと思うものの、うんざりしながら乗り込む。