僕らの世界 (ページ37)

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前日　海斗編ページ37

「頑張ってな」
俺ー進藤海斗ーは、音楽室まで送りに来てくれた凉馬と手を振って別れた。

「進藤くん」
声をかけてきたのは、吹奏楽部顧問の島田先生。先生は、吹奏楽部顧問になったその年に初の東関東大会出場へと導いた人物だ。とにかく凄腕。
「来てくれてありがとう。今日は基礎練の後に合奏です。とりあえずサックスの所行って楽器出してきて」
「はい」
俺は、この前の練習で一緒に行動した浦部くん(俺と同じ2年、テナーサックス)の所に行く。
「浦部くん」
楽器を出している浦部くんに声をかけた。浦部くんは俺を見るなり表情がパーッと明るなった。
「進藤くん！今日も頑張ろうね！」
俺はケースを開け、リードをマウスピースにセットして楽器を組み立てた。

よし、いい感じ。リードの調子も良好。

「席そこね。俺の隣」
浦部くんが指を差す。周りと同じ椅子だけど、スポットライトに照らされているような特別感。
俺はそこに座り、音出しを始めた。

「クラ、聞こえない」
「ホルン、丁寧に吹け」
「チューバうるさい、メロディー食ってる」
島田先生は、いつもの優しい雰囲気がなくなり、鬼コーチって感じ。意外と怖い。

そしてもう1つ気付いたこと。ショージの兄・翔はトロンボーン1stだが、とにかく上手い。頭3つ分くらい飛び抜けている。音がハッキリと、決然としていて、スライドアクションも速い。色で表すなら鮮やかな赤。なのに、もうすぐ楽器はやめるという噂を聞いた。何でだろ。

「ありがとうございました！」
43人の部員と、翔先輩(って呼べと言われた)と、俺。総勢45人の挨拶が音楽室に響く。
午後7時、解散。
「明日、頑張ろう」
「うん、また明日」
浦部くんは俺に手を振り、音楽室を出ていった。俺も、荷物をまとめて音楽室を後にした。

「海斗」
後ろから翔先輩に呼ばれた。
「途中まで一緒に行こう」
ね、と笑いかけられ、俺は頷いた。

「隼と仲良くしてくれてありがとう」
「いや、俺助けられてばっかりで」
「何となく想像つくよ。隼、末っ子なのに世話焼きで」
駅までの道と帰りの電車で、俺たちは色々なことを話した。まるで電車が、同じ所をずっと回っていると思ってしまうほどずっと。でも実際は1駅分。すぐ翔先輩の家の最寄り駅に着いた。
「じゃ、明日。頑張ろうぜ」
「また明日」
先輩の大きな後ろ姿はドアの向こうに消えていった。

俺が電車を降りると、スーツや制服の黒が空に流れ出したように暗い夜が広がっていた。