僕らの世界 (ページ24)

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孤独の城・3 ページ24

「俺の親、離婚するらしい」
海斗の口から紡がれたのは、意外な言葉だった。
「えっと…なんか、聞いちゃってごめん」
真帆が申し訳なさそうな表情になる。
「いや、別にいい。で、問題はそこからなんだけど、俺そっちのけで話が進められてるんだ」
「え？？」
「親権とか、家はどうするとか。俺が聞いた話では、母さんが出てって、俺は父さんのところに残るらしい」
「『らしい』って…」
「というか、海斗んち、お父さんとお母さんってすごい仲良いんじゃなかったっけ？」
凉馬が尋ねる。
「うん。けど、母さんの仕事のことで色々揉めてさ」
「海斗のお母さんって何やってるの？」
「プロのクラリネット奏者。あの部屋の楽器は全部母さんからもらったんだ。家出てくって決まった時にコレクションした楽器をいくつか俺にくれた」
「そうだったのか…」
「あと、エレキベースはこの前の誕生日に貰った。迷惑かけるかもしれないからって言葉添えて」
「なんか切ない…」
「フランスのバンドに行くことになって、俺と父さんがそっちに行くか行かないかで揉めて、家どうするかとかで揉めて、離婚するって話になった」
「海斗はホントに蚊帳の外なの？」
「ああ。俺がその話知った時にはもう手遅れ」
「マジか…」
「んで、それとまた学校来ないのとはどういった関係？？」
海斗は腕組みして考えてから言った。
「学校はうるさいから。前もストレスで不眠になってしばらく登校しなかっただろ。だからまだ家にいる方がマシなんだ」
「ああ、そういう…」
「それに、家で親が怒鳴り合っててもあの部屋で楽器吹けば関係ないし」
海斗はさっきまでいた部屋を指差す。
「ーじゃあ海斗、しばらく来ないのか？」
俺は尋ねた。
「まあ、ね。でも、気が向いたら行くつもり」
「そうか。…なら海斗、そんな君にぜひ任せたい任務があるんだ」
「え？何それ？」
「海斗、一番得意な楽器は？」
「うーん…テナーサックス」
「じゃあ、明日、ここにまた来ていいか？」
「明日は…母さんがいるかもしれないからちょっと」
「なら、ファミレス集合で」
「わかった、明日ね」

「突然押しかけてごめんね」
「別に、大丈夫」
「じゃ、明日」
「うん、ありがとう」
俺たちはしばらくくだらない話をした後、それぞれの家へ帰った。東の空は、夜の色に染まり始めていた。
ふと俺らの状況もこんな色なんじゃないかと思った。明けない、長い夜。
しかしそこまで考えたところで考えるのをやめた。あんまりマイナスになってもよくないからね。