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夕暮れ ページ46

「神河さん」
月曜日の夕方。ショージは「塾だから」と言って、先に走って帰った。帰り際、俺ー進藤海斗ーは神河さんに声をかけた。神河さんは振り向くと、
「…何でしょうか」
と、ぶっきらぼうに返事をした。目は、分かりやすく怒りに満ちていた。
「俺、進藤海斗。よろしく」
「神河咲です、よろしく。それでは」
神河さんは、踵を返して帰ろうとする。俺は「待って」と言って何とか引き止めた。
「話したかったんだ、神河さんと」
「…何を?」
「まあ、単刀直入に言うと、一緒に頑張らない?って話」
「嫌、私は向いてないから…」
それだけボソッと言うと、うつむいて黙ってしまった。俺はしゃがんで、神河さんの目を下から覗き込んでみる。
「何で、向いてないと思う?」
俺が質問すると、神河さんは、
「私は、姉ほど明るくもないし、リーダーシップもない」
と答えた。俺はその言葉の裏の意味を聞き逃さなかった。
「『姉ほど』?じゃあ、お姉さんと比べないで、自分のことだけ見たら?」
「…同じだよ、明るくないしリーダーシップもない」
「そんなことないよね。俺、神河さんと小学校の頃から一緒の人に聞いたんだ。小島佳奈子って人から」
「…え?」
「神河さん、前は学級委員とかもやってたんだって?」
神河さんは、はっとしたような表情になった。
「だから、もともとないって訳じゃないんだね」
「…今やらないのは、自分に才能がないって気付いたからだよ」
神河さんは吐き捨てるように言った。
「じゃあ、俺の母さんがよく言ってた言葉を教えてあげる」
「お母さん?」
「そ、母さん。『才能は磨くもの』ってよく言ってたんだ」
「磨くもの…?」
「ああ。母さんはそうやって、プロのクラリネット奏者になった」
そう言ってから神河さんの目を見ると、瞳孔が大きくなるのが見えた。
「…だから、頑張ろうぜ」
神河さんは、コクンと頷いた。
「…進藤くんって、優しいね」
「そうか?ありがと。俺のことは海斗でいいよ」
「…海斗」
「はいはい」
「サキって呼んで」
「OK、サキね。よろしく」
「…よろしく」
夕暮れの光のせいか、そう言うサキの顔は赤く見えた。

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作者名:BLUE LEMON 綺 | 作成日時:2021年2月2日 21時

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