それとも。 ページ33
．
シミュレーションを行ってから数日後。
ついに山本さんのオペの日がやってきた。
時間のあった私は、看護師に押された車椅子の上で緊張気味の彼女に付き添う。
オペ室の前辺りでベンチに座った木下さんが待っていた。
山「香織さん…」
立ち上がって会釈すると、山本さんが驚いたように声を上げた。
看護師を見上げ、無言で車椅子を止めるよう求める。
山「貴女に、話したいことがあるの」
木「先生方がお待ちです。……お急ぎください」
表情は硬いままそう告げられ、山本さんは悲しそうに眉を下げる。
頑なに対話を拒んでいるのか。
それとも。
木「お話なら」
仕方なく車椅子をオペ室へと進め、扉が開いたとき、後ろから追いかけるように声がかかる。
看護師は立ち止まり、山本さんは下から木下さんの表情を伺った。
木「術後にお聞きします」
ふっ、と強張っていた顔を綻ばせて、木下さんは柔らかく笑う。
漸く、彼女の本当に穏やかな笑顔を見れたような気がした。
ここのところ微かに眉間に皺を寄せている表情ばかり見てきたから。
木「成功を祈っています」
山「…はい」
山本さんも穏やかな表情を浮かべ、しっかりと頷く。
後のことを看護師に任せ、私は木下さんに向き合った。
木「北見先生」
木下さんが眉を下げて私を見る。
心なしか瞳が揺れている気がした。
「大丈夫。絶対に成功させてみせますから」
頑張るのは黒崎准教授だけどね。
まぁ、いざとなったら私が執刀しますし。
オペのシミュレーションは今日まで時間の許す限り重ねてきた。
大丈夫。必ず、成功する。
「木下さんは、モニタールームで見守っていてください」
笑顔を彼女に向けて、私はオペ室へと向かった。
いよいよ、カエサルを使用したオペが始まる。
何も起こらないことを祈るばかりだ。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
赤星となりました。
評価、しおり等本当にありがとうございます。
2018-10-21
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 531人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
霜月(プロフ) - ゆんすずさん» コメントありがとうございます！応援して頂けて非常に嬉しく思います。これからも頑張りますので、宜しくお願いします！ (2018年12月17日 23時) (
レス) id: 7faa8b6556 (このIDを非表示/違反報告)
ゆんすず(プロフ) - いつも楽しく読ませて頂いております！！更新大変ですが頑張ってください！！応援しています！ (2018年12月15日 1時) (レス) id: 67b7d75cd8 (このIDを非表示/違反報告)
霜月(プロフ) - snake20xjapan04さん» コメントありがとうございます！嬉しいです！頑張って更新しますのでこれからも宜しくお願い致します。 (2018年10月10日 20時) (レス) id: 7faa8b6556 (このIDを非表示/違反報告)
snake20xjapan04(プロフ) - めっちゃ面白い！です。これからも楽しみにしてます。 (2018年9月26日 17時) (レス) id: b0aeedf16f (このIDを非表示/違反報告)
霜月(プロフ) - 白兎さん» ご報告ありがとうございます。私もその作品を拝見したのですがあまりに似ていて驚きました。でも、どう対処するかまだ検討中なので…。暫くは様子を見ようかと思っております。 (2018年8月10日 0時) (レス) id: 7faa8b6556 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：霜月 | 作成日時：2018年7月13日 23時
