僕らの世界4 (ページ10)

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恋愛のベース・2 ページ10

『…』
サキは、しばらく何も言わなかったけど、俺が「言いたくなければ言わなくていいよ」と言おうとすると、息を吸う音がした。
『…うん、まあ色々』
「そっか。俺でよければ、相談乗るし、辛かったら言って」
『ありがと。
…早速なんだけど、その時のこと、聞いてくれる？』
もしかしたらそのことは話したがらないと思ってたから、ちょっと意外だった。それと、自分から聞いてと言ってくれて何だか嬉しくもあった。
「いいよ、サキのためなら」
『ありがと』
「Your welcome.」
わざとカッコつけてみたら、電話の向こうでカッコいいと褒めてくれた。
『辞めた理由はいくつかあるんだけど、まず私、姉がいるって話はしたよね』
「ああ、聞いた聞いた」
『姉も吹奏楽部でクラリネットだったの』
「俺の母さんと同じだ」
俺は、サキに対してなんとなく親近感を覚えた。
『すごく上手かった。だから私も吹奏楽部に入って、クラリネットやってた。でも、クラリネットやってる姉の同級生の人に、色々酷いことされた。自分より上手い姉を妬んでるけど、信頼が厚い姉に直接何かしたら問題になるからって、私に当たってきた』
「そうなんだ…」
『それも姉のいない所で。最初は下手とか役立たずとか、そういう悪口だったんだけど、そのうちリード買ってこいって言われたり、退部届渡されたりした。最後は、スタンドに立ててた楽器倒された』
「一番やっちゃダメなやつじゃん！」
俺は、強い憤りを感じた。内臓が焦げるような心地の悪さだ。そんなの、立派なイジメじゃないか。
『あと、その先輩以外の人とも上手くいってなかったから』
「なるほど」
『あ、肝心なこと言ってなかったけど、イジメのことが姉にバレたのも』
真帆みたいな展開。ずいぶん似たような境遇だ。
『それで、とどめは自爆みたいなもの。演奏会で派手に失敗した。もう目立ちたくなくて、クラリネットはやめた。代わりにベースで頑張ろうって思って、マイ楽器も買ってもらったし』
「ベースってのは、そういうことだったんだ」
『そう。でも、イジメのことをずっと引きずってた。周りから役立たずのエース妹とか、いじめられてた悲劇の人とか、そういう目で見られて嫌だった。やめたいって思って、そのまま退部』

「…話してくれてありがと。大変だったよな。でもこれからは、俺がいるから」
『ありがとう、海斗ってやっぱり優しいね』
「そうかな」
顔を見なくても、サキの笑顔が思い浮かんだ。サキを守りたいと思った。それにちょっとドキドキした。これって恋なのかも。