僕らの世界4 (ページ39)

今日:35 hit、昨日:4 hit、合計:2,047 hit

疲れた時はページ39

辺りが暗くなり始めた頃、凉馬が帰って、俺ー進藤海斗ーは部屋にひとりになった。ここで初めて俺が疲れていることに気付いた。ズシリと感じる重力は、俺を地底に引き込もうとしているみたいだ。
仰向けにベッドに倒れると、スプリングが軋んだ。天井には、視力検査用のポスター。
上、右、左、上、下、左。
何度も見て覚えているから、視力はいつだって2.0。こんなことをしても意味はないと分かっていても、今日みたいな疲れた日なんかは無意識にやってしまう。

別に、凉馬といて疲れるわけじゃない。むしろ、気が休まる。ちゃんと俺のことを理解して、気遣ってくれる。凉馬は、本当にいい友達だと思っている。
それなのに、疲れた。学校や駅で人混みに揉まれた後みたいな疲れが、俺を地底に沈めようとしてくる。

こんな時、携帯に手を伸ばして電話をかけたくなる相手がいる。サキだ。
しょっちゅう意味もなく電話をかけるから、サキの連絡先は常に一番上にある。いつまでも俺の話を聞いてくれるサキは、凉馬と同じように気が休まる話し相手だ。
電話をかけると、サキはワンコールで電話に出た。
「もしもし、海斗？」
サキは、いつもの声で俺の名前を呼んだ。この声がなんだか落ち着くから、いつも電話してしまう。つまり、「君の声が聞きたくて」を地で行っていることになる。
「おう」
「今日はどうしたの？」
「まあ、ちょっと凉馬にも相談したんだけどさ、不登校のこと」
「へえ」
「俺、不登校として生きようと思う」
電話の向こうが、一瞬しんとなる。
「…そっか、そうなんだ、すごい決断したね」
「…止めないどころか、驚きもしないないのか？」
「え、止めてほしかった？」
「そうじゃないけど…凉馬はすげえ驚いてたからさ。驚かないことに驚きっていうか」
途中から自分が何を言っているのか分からなくなった。頭がグルグルした。
「海斗、疲れてる？」
「えー…いや、そんなでも」
「図星なんでしょ。休んだ方がいいよ、自分のためにも」
強がってみたけど、サキに嘘は通用しなかった。さらに休んだ方がいいとまで言われて、サキには敵わないと思った。
「あ、私んちそろそろ夕飯だから切るね。バイバイ」
「じゃあな」

無機質な通話終了の音だけが、広すぎる部屋に響く。外はすっかり暗くなって、俺は夕飯を食べる気力もないほど疲れている。

俺はそのままベッドで睡魔に負け、気付いた時には日付が変わっていた。