僕らの世界4 (ページ37)

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不登校という生き方・1 ページ37

Z021年5月、ゴールデンウィーク。特にやることもなくて暇を持て余していた僕ー伊達凉馬ーのもとに、1本の電話がかかってきた。声の主は海斗。「相談したいことがあるから、明日の2時くらいに俺んち来て」とだけ言って電話は切られた。

そして今に至る。
海斗の部屋は相変わらず物が少なくて、殺風景だ。海斗曰く、「物が少ないっていうか、部屋が広すぎるんだ。贅沢な悩みかもしれないけど」。

海斗は持って来たジュースをテーブルに置いて、僕の向かいに座った。
「相談っていうのはな…」
海斗は、そこまで言ってため息をついた。まだ本題が何だかも分からないから、僕もフォローのしようがなくて、ただ次の言葉を待った。
「…ごめん」
「いいよ、時間だけはあるから」
海斗は顔を上げた。その顔がひどく疲れているように見えて、僕は心配になった。

「俺、不登校として生きようと思う」

その一言の重みは、全身にずしりとくる重さだった。
「不登校？」
「俺、不登校っていう生き方をしようと思う」
僕は、もう何も言えなかった。頭の真上を雷に打たれたみたいな衝撃で、頭も口も働かない。
「やっぱり、クラスに馴染めない。前々からストレスで不眠症だったんだけど、クラス変わってから余計に悪化しちゃって。そこまでして学校行くのもって思って、カウンセラーの人に相談したんだ。そしたら、無理して学校行く必要はないって。だから、この際不登校になろうと思った」
「…そうだったんだ。大変だったな。
…僕は、いいと思うよ。海斗にとってそれがいいなら」
海斗に僕がかけられる言葉は、それくらいしかなかった。

「それがいいなら、か。そう言われるとな…」
「え、ごめん」
曇った海斗の顔を見て、僕は慌てて謝った。
「いや、そういうことじゃない。むしろありがとう」
「どういうこと？」
「凉馬は、『それがいい』って言った。俺は『それでいい』とは思うけど、『それがいい』かって訊かれると…やっぱり考え直そうかなって思って」
「何かごめん、相談してくれたのに」
僕は、やっぱり謝った。無神経なことを言ってしまったと思った。
「いいよ、そんな風に思わなくて」
「そう？でも海斗もそんなに深く考えなくていいから」
「…うん、そっか」
「そうだよ」
僕と海斗は、やっとジュースに手をつけた。コップの表面は結露して、シャワーを浴びてさっぱりしたみたいだ。酸っぱくて甘いオレンジの味が、妙に染みた。