僕らの世界4 (ページ14)

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瀬戸太一・3 ページ14

「…何」
アパートに帰る前日の夜。風呂から上がって部屋に入ると、床に座って本を読んでいた航平に邪険な顔をされた。
「何って、ここは俺の部屋だ」
航平は、あっそ、と言って本に視線を戻した。
「失礼するぜ」
と言って俺が航平の横に座ると、航平は渋々本を閉じた。
「航平、ごめんな」
「…えっと、どのへんが？思い当たることがたくさんあるんだけど」
「ひでぇな…まあ、思い当たること全部、ごめん」
「3年前に僕のプリン食べたのとか、たまにシャーペンの芯パクッてたのとか、部屋の掃除しないのとか？」
「…そうだな、ごめん」
普段は大人びている割に沸点は子供っぽくて、ちょっと笑った。そして、想像以上に色々根に持っていて、こいつは恐ろしいと思った。
「でも、俺が一番謝りたいのは、こんな兄ちゃんでごめん、ってことなんだけど」
「…」
「湊たちの面倒もまともに見ないで、自分はやりたいことやってさ、ごめんな。家族のこと、全部航平に押し付けて」
「…」
航平は、じっとこちらを見ている。何を考えているのか、よく分からない。
「ごめん、ダメな兄貴で。みんな任せっきりで」
「…僕は、そのことは怒ってない」
「え？じゃあ最近何に怒ってたんだ？」
「兄ちゃんが、全然帰ってこないこと。去年の春からこの前まで、1年も帰ってこなかったから。僕、部屋散らかすのは嫌だけど、やっぱり兄ちゃんと一緒の部屋がよかった。ずっと1人で、寂しかったし」
航平は、下を向いて言った。
「…そっか、寂しい思いさせてごめんな」
「うん…」
航平は、うつむいていたと思ったら、いきなり顔を上げた。
「まあ、お盆と正月とゴールデンウィークに帰ってきて、帰ってきたら僕に1日1個プリンを貢ぐことを条件に許す」
何を言い出すのかと思ったら、簡単だけど辛辣な条件だった。俺は笑って、
「分かった、盆と正月とゴールデンウィークには帰ってきます」
と言った。
「プリン、忘れずにね」
「航平、どんだけプリンのこと根に持ってんの…」
航平は、にへ、と笑うと、
「食べ物の恨みは恐ろしいから」
と言ってまた本を開いた。

「明日からも、俺の代わりに家族を大切にしてほしい」
「任せといてよ。兄ちゃんも仕事頑張って」

俺は、本当にいい弟を持った。出来すぎる弟だ。これで、安心して仕事ができそうだ。