絶滅 ページ41
「青葉」
凉馬は、いつもの静かな声で私ー青葉真帆ーを呼んだ。浦部くんも瀬戸くんも部活でいないから、残った私たちだけで作業をしている時のことだった。私は生徒会の仕事をする手を一旦止めて、凉馬の方に目を向けた。
凉馬は、悲しげな、切なげな笑顔で私を見つめてきた。
どうしたの、と訊こうとしたけど、なんだか訊けなかった。凉馬のこんな表情を見るのは初めてで、どうしたらいいかもはや分からなかった。
「…これ、文芸同好会に」
凉馬は、そう言ってプリントを差し出してきた。右上には、「渚学園中等部生徒会」の文字。
「文芸同好会 廃部のお知らせ」
私は目を閉じて耳を塞ぎたくなった。今までなんとなくタブーとされ、誰も口にしなかったことをこうして伝えられると、目を背けたくなる。
「後輩、見つからなかったから」
静かに説明する凉馬も、多分私と同じように知りたくなかったんだと思う。声が震えていた。
理解するのが怖い。
投げ捨ててしまいたい、こんな事実。
斎藤先輩から受け継いで、2人で協力して活動してきた文芸同好会を、潰したくない。
「本当に、なくなっちゃうのかな」
私が凉馬に訊くと、凉馬はどこか一点を見つめながら言った。
「ああ、なくなるらしい。現実味がないよ」
私は、息を吸って叫び出したくなるのを抑えた。
「…仕方ないよね、うん。マイナー文化部で、2人とも忙しくて活動できてないし、実績もないし」
そうかもな、と凉馬は頷いた。
「嫌だよ、潰したくないよ」
「僕も同感だ。…でも、どうしようもないんだ、こればっかりは」
私は、ちょっと泣いた。凉馬も、ちょっと泣いた。
ひとしきり泣いた後、
「引退まで、ちゃんと活動しよう」
と2人で誓った。
窓から見える少し赤みがかった空に、5時を告げるチャイムが歪な輪唱となって流れていった。
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作者名:BLUE LEMON 綺 | 作成日時:2021年5月18日 20時