僕らの世界5 (ページ34)

今日:11 hit、昨日:2 hit、合計:2,113 hit

サキの憂鬱ページ34

テスト期間に入り、みんな部活が休みになった。
それが、元吹奏楽部・現帰宅部の私ー神河咲ーが今最も憂鬱に思うことだ。
私だけの帰り道が、みんなの帰り道になる。ひとりで静かに帰りたいのに、そんな私の願望は周りの生徒の喧騒にかき消されてしまう。
いつもベースを練習している秘密の場所で、他の誰かが遊んでいることもある。そういう光景を見るたび、そこは私の場所なのに、と思ってしまう。
そんな感情が間違っていることは、もちろん分かっている。本来みんなの場所なのに、勝手に「私だけの場所」とか思っちゃってるだけ。それでも、なんだかモヤモヤする。

『あいたい』

帰りの電車を待つ間、特に深く考えずに海斗にメールを送った。今は寝てるかも、と送ってから申し訳ない気がしてきた。
海斗は、不登校を決意してからほとんど会っていない。電話も、寝ているかもしれないと思うと送りにくくて、全然かけなくなった。メールは私と海斗が繋がっていられる、最後の砦なのかもしれない。でも、最近海斗は返事をくれなくなった。もはや一方的な電気信号にすぎない。

『俺も』

電車がホームに入ると同時に、海斗から返事が来た。
あいたい。
俺も。
合計6文字のやりとりに、なぜかドキドキしてしまう。
顔が少し熱くなった気がするけど、表情は変えずに電車に乗る。
『テスト終わったら会おう』
一語文からちょっと進化して、今度はちゃんとした文章を送った。
『了解。テスト頑張ろー』
笑顔の絵文字と一緒に送られてきたメッセージを、どう取ればいいか迷った。海斗が自分に対して「頑張ろー」なのか、私にも「頑張ろー」と言ってくれているのか、どっちか分からなくて、
『勉強しなきゃー』
という、どっちにコケても大丈夫な返事をしておいた。海斗はすぐに、
『モチベ上がった、ありがと』
と返してきた。続けて、
『ただいま特訓中』
というメッセージに、文字がびっしり書かれたノートの写真を添付して送られてきた。
『すごい！私も頑張るよ』
と返したところで、電車が停車した。荷物を持ってホームに出ると、駅メロがけたたましいほどに鳴っていた。今日はなんだか、その音にもときめいてしまった。