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久しぶりの日曜日・1 ページ31

俺ー進藤海斗ーは、今朝もただ1人サックスを吹いていた。最近梅雨入りしたから、リードの管理に気を遣いながら、ほとんど毎朝練習している。
ちなみに、現在の時刻は朝5時過ぎ。防音室だから、こんな時間に吹いていてもクレームは来ない。俺は夜型になってしまった生活リズムを直すためにちょっと頑張っている最中だ。最近は、3時前に起きて、午後8時には寝てしまう。一気に昼夜逆転はさすがに不可能で、少しずつ直そうとした結果、中途半端な時間に起きて中途半端な時間に寝ることになってしまった。
夜明け前や早朝はすごく暇で、よく防音室に籠って楽器を吹いている。水曜日と土曜日は青葉先輩と早朝ランニングがあるけど、今日は日曜日だからそれもない。時間を贅沢に持て余していることになる。

去年の文化祭で吹いたソロを吹いて、母さんを思い出して感傷に浸っていると、ドアをノックする音がした。
ドアを開けると、予想通り父さんだった。父さんは仕事が忙しくて、いつ帰ってくるのかよく分からない。父さんもまた、中途半端な生活リズムをしているらしい。たまに帰ってきていても、俺が寝ていることが多いから、会うのは結構久しぶりな気がする。
「早起きだな」
「いつ帰ってきたの」
言った後で、会話が噛み合っていないことに気付く。
「昨日の10時ぐらい?海斗、その時にはもう寝てた?」
「うん」
俺は、間が空くのが何となく嫌で、無意識にキーをカチャカチャやっていた。
「今年入ってから全然見てなかったけど、上手くなったか」
「まあね」
「朝なんか食べた?」
「まだ食べてない」
本当は「普段から食べていない」だけど、たぶん心配されるだろうから言わないでおいた。
「パンでいい?」
「いいよ」
俺は楽器を片付けて、ダイニングへ向かう。
ちゃんとダイニングで食事をするのは久しぶりだった。父さんは食パンをトーストして、俺に出してくれた。こんがり焼けて、いい匂いがする。
「いただきます」
誰かと食事をすることもまた久しぶりだ。向かいに座る父さんが、トーストをかじる。俺も大きめの1口でかじった。
小さい頃、母さんが仕事でいない時の朝食を思い出す。その時もやっぱり父さんとパンを食べた。タイムスリップしたみたいだ。これからずっとタイムスリップ気分が続くと思うと、少し寂しいけど。
黙々とパンを食べていると、雨が降り出す音が聞こえた。
「どこか出掛けようと思ってたんだけど…また今度だな」
父さんは、小雨のようにつぶやいた。

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作品ジャンル:純文学
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作者名:BLUE LEMON 綺 | 作成日時:2021年5月18日 20時

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