【小説】ネクサス魔法武術学園2 (ページ44)

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実験台(ウィスティアリア) ページ44

無骨な太いベルトが幾つも巻かれており、金属板をつぎはぎのようにボルトで留めている銀色の実験台。天井から吊るされた明かりが、辺りの暗闇からそれを浮かび上がらせていた。
大きな革のベルトは、余程のことがない限りちぎれそうにもなく、今はそのベルトに一つ、捕まっているモノがいた。

「......」

まぶたは閉じられたままぴくりとも動かず、生きているのかすら定かではない。人工的な光が照らすそれは、人の形をした何かだった。
そしてそれを眺める女が一人。

「──さて、」

ウィスティアリアは静かに口を開いた。いたって平静を装った顔からは、心中の興奮は読み取れない。ただ、ぎらぎらと輝く藤色の瞳が、火傷しそうな程の熱を持って分解対象を眺めている。

「始めようか」

刹那、幾つもの金色の魔法陣が現れた。行われたのは召喚大魔術。ウィスティアリアと契約した大量の分解用具が召喚され、目に見えぬ力によって辺りに浮く。

金槌、鋸、槌、フラスコ、ビーカー、釘、糸鋸、ヤスリ、包丁、メス、鉗子、杭、鋏、カッター、レンチ、ナイフ、注射器...。

怪しげな液体が入ったもの、鉄の匂いがこびり付いているもの。よく手入れされているのか、色が濁ったものやくすんだものは一つとして無い。持ち手の部分に赤黒いシミが付いているものはあるが、ウィスティアリアは特に気にしていない。
──因みにだが、ウィスティアリアは犯罪を犯している訳ではない。付着するモノの大部分は食事の下準備──牛や鶏などをさばく過程で付いたものであり、残りはデストロイドの油などである。とはいえ、さばいている内に謎の実験などを始めたりするので必要の無い器具は多い。
人工的な光を反射して浮かび上がるそれらは、これから起こる事を暗示していた。

「うふふふ」

手頃な位置にあったメスを握り、軽く腕を回してウィスティアリアは笑った。
楽しそうに、楽しそうに。
嬉しそうに、嬉しそうに。

「大丈夫、１回全部バラしたら、ちゃんと改造して直してあげるから」

うっとりと、心底愛おしいモノを見る瞳で。

「うふふふふ」

るん、と擬音が付きそうなほど浮かれたウィスティアリアがホルマリンの入った容器に頬擦りする。不気味な色合いの液体の中には、先程のデストロイドから採取した人工皮膚の一部が浮かんでいた。

「あぁ...」

熱っぽい吐息を漏らし、ウィスティアリアは容器を抱きしめる。
ルナ・マリアが運ぶ大量のデストロイドが向かって来ているとは知らずに。