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第9話『紙とペン』 ページ9

それは彼が大通りを通ろうとして、たまたま横を向いた時だ。倒れている人間にツタが巻かれ、その周りを取り囲むように人が集まっていた。その上、蛇までいる。あれがクライムというのだろうか。そう彼は感じてしまったのだ。
 事の始まりは数十分前。こんな世の中でもなけなしの病院ならば未だ経営されていた。そこに入っていく男性、雪見 卯月。彼は若い頃に聴覚を失うが読唇術を身につけ、筆談と相槌で会話を成立させていた。

「話とは?」

「ここにあるのは生命の樹から採れた果実。もうこれしかないのだけどね。我々もクライムに隠し通すのは厳しいと感じた。そこで、だ。中途失聴者の君に食べてもらいと考えたのさ」

 その果実は万病を治す。その話は色々な人間から話はされていた。紙に書かれたその内容はとても得のある話であり、雪見もその話に惹かれていた。

「それを食べれば俺もまた耳が聞こえるようになるんですね。でも」
「そういうと思っていた。ここでなくてもいい、君のタイミングで食べればいいさ」

 そんな感じで押し売られるように果実を渡されて帰る途中にその大通りを通ろうとした。そして、今に至る。雪見は来た道を少し引き返し、回り道をしようかと考えていたがどの道でもあの大通りに通じてしまう。
 仕方なく、当初に通ろうとした道で気づかれないようにさっさと通る事にした。先ほど気づかれなかったのだから次も大丈夫だろうと、安直な考えだったのだ。彼は致命的なミスを犯していた。手に実を持っていたのだ。

「それを何処で手に入れた?」
「……」

 通っている最中に見つかり、そして追いかけられる。普段家の中に引きこもっている彼は人並み程度かそれより以下の体力であり、すぐに追いつかれてしまう。そして今は尋問を受けている。
 しかし、紙とペンがないので言いたい事を伝える事も出来ない。声は出せるのだが聞こえないが為に声の音量やはっきりと喋ることが出来ているか、彼にそれを理解する術はない。その実を食べていない今は。

「聞こえていないのか? 答えろ」
「……」

 目を逸らし、無表情のまま語らない雪見の態度に尋問を行う雪城の表情も次第に険しくなっていく。埒が明かないと折れた雪見は一か八かの賭けに出る。

「……貸してください」

 あまりにか細く、肝心の前半の声が消えかかっているが手話と合わせてどうにか声に出すことは出来た。

「なんだって?」
「紙とペン、貸してください」

第10話『もう一つの仕事』→←第8話『クライムというもの』



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美坂るぅ(プロフ) - 更新日数的に、皆さんのキャラクターがお亡くなりになられていると思われます。 (2017年6月29日 20時) (レス) id: a41f8e5530 (このIDを非表示/違反報告)
美坂るぅ(プロフ) - これ以上リーダーにため口を使うキャラが増えると小説が成立しなくなりそうなのでやめてくだされば幸いです。 (2017年3月29日 15時) (レス) id: a41f8e5530 (このIDを非表示/違反報告)
美坂るぅ(プロフ) - スカビオサさん» 消してあったんですけどね…不具合で戻ってしまったようで… (2017年3月29日 10時) (レス) id: a41f8e5530 (このIDを非表示/違反報告)
美坂るぅ(プロフ) - スカビオサさん» 終わってますよ (2017年3月29日 9時) (レス) id: a41f8e5530 (このIDを非表示/違反報告)
スカビオサ(プロフ) - 美坂るぅさん» 更新終わりましたか?? (2017年3月29日 9時) (レス) id: b80a207be1 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:黒幕 x他6人 | 作者ホームページ:( ˇωˇ )  
作成日時:2017年3月23日 10時

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