☆ ページ10
☆
ブリキのおもちゃのようにカタカタと寝室へ逃げこみ
勢いに任せてクローゼットの引き出しを開けた。
「…よしっ……」
おれは１秒でも早くやぶを手放すべきだ。わかっている。
それなのに、甘ったるくて丸い期待を口に放りこんで
また夢中にさせて、おれの邪魔をしたやぶが悪いのだ。
永遠じゃなくていい。少しだけでいいから
まだやぶと一緒にいられるって、約束が欲しい。
あの日、石畳の街で、やぶのことばかり考えていた。
似合いそうな物を見つけるとつい手に取ってしまって
街はおれの”心の紐”がゆるんだ隙を見逃さなかった。
なかば強引に買わされたはずのプレゼントは
"練習だから"、言い訳もまとめてラッピング。
包装紙はやぶのきみどり色を選んだ。
クリスマスツリーでも、ピスタチオでもなく
春の訪れを告げる新緑の色だ。
どうせ渡せない。自分の物にしてしまえばいい。
そうやって引き出しに押し込んだ、すこし先の未来。
そっと両手で掴んだらワクワクが押し寄せて
やぶの元へ走り出したくて止まらなくなった。
ねぇ、やぶ、おれ達の未来ってどんな色をしてると思う？
「…やぶ、これ…よかったら…」
「 えー、なんだろ。開けてい？」
やぶは、おれがラッピングをしたなんて知らないで
包み紙をビリビリと斜めに破いてしまう。
「…おぉ！シャツだ！うわ、すげー爽やか！」
「…そういう色も似合うかなって」
やぶは、おれがふり絞った勇気も企みも知らないで
”いいねいいね好青年”、と嬉しそうにころころ笑った。
それから、少しくすんだ桜色のそれを肩にあてがって、
「でもこれ薄くね？さすがに寒いわ」
と、首をかしげてはデリカシーの無いことを言う。
「ちょっと早いけど、もう春物しかいいの売ってなくて…
暖かくなったら着てくれる？」
やぶは、数ヶ月先の未来を、10代最後の青い春を
おれに約束させられたことも知らないで、そっと頷く。
何も知らないおれの恋人。
「…春になったら、これ着てここでお花見しよっか。
桜は俺がなんとかするからさ。ひかるは弁当つくってよ」
「…ここに桜？…ふふ、へんなのっ」
おれは心を読まれたくない時、つい口に手を当ててしまう。
やぶがその指をきゅっと握って、自分の方へ手繰り寄せて
突然真面目な顔をして、また癖が出ていたんだと気づく。
自信満々な瞳に射抜かれたら、その癖ごと全部コナゴナだ。
「…ひかる。俺にできないことなんか無いんだって」
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ななみん(プロフ) - ありがとうございます！さっそく読もうと思います(*^-^) (2017年2月19日 14時) (
レス) id: 5e617ef865 (このIDを非表示/違反報告)
しょこる(プロフ) - ななみんさん» ななみんさん、ありがとうございます^^まず薮sideの「ねぇ、全部ちょうだい」を最初から読んで頂くのがいいかと思います。あとは、ひかるくんの女友達sideと短編集があるのですが、こちらは時系列がバラバラなので、気が向いたときに好きな順番で読んで頂けます(u_u) (2017年2月19日 10時) (レス) id: 7e239da259 (このIDを非表示/違反報告)
ななみん(プロフ) - しょこるさんこんにちは！ねぇ、シリーズ今から読み始めようと思うんですが、どれから読むのがおすすめでしょうか？ (2017年2月19日 7時) (レス) id: 5e617ef865 (このIDを非表示/違反報告)
しょこる(プロフ) - 夏樹さん» いつも心のこもった感想ありがとうございます＊文章だけを読んでそれほど感情移入し、号泣までできるというのは、きっと夏樹さんが素直な心の持ち主だからですね…（ ; ; ）とにかく嬉しいです。今後もゆっくり更新ですが、よろしくお願いします＊ (2017年2月17日 0時) (レス) id: 7e239da259 (このIDを非表示/違反報告)
夏樹(プロフ) - こんにちは。光side本当に切なくて大好きです。このクリスマスのお話で大号泣、更には解説みたいな話の内容を読んだら感情移入をしすぎてしまい歯止めがきかずまたも大号泣をしました。しょこるさんの書き方、話の内容大好きです。これからも応援してます。 (2017年2月12日 7時) (レス) id: d278d89ff9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：しょこる
| 作成日時：2016年12月29日 22時
