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…
「……ひか、」
「よし、じゃあこれ使おっ」
そう言ってくるり、とこちらに向き直ったひかるは
リュックを抱えて、さっきまでの空気が嘘みたいに
にこにこ笑っている。
「え、あ……使うの？」
「……うん……だって……
ケチケチしてやぶに飽きられたら意味ないもん」
ね？
ひかるはウインクでもしそうな、人懐っこい笑顔を
貼りつけたまま俺に目配せをした。
シールみたいにぺらっと剥がれそうな笑顔に、胸が
締めつけられる。
「使いかた教えてっ」
ひかるがごそっ、とリュックを俺に手渡して言った。
俺は曖昧に首を横に振って答えた。
「……今日はもういいよ」
「なんで？おれが渋ったから？」
違う。そうじゃない。
ひかるの不安がたとえ、スプーン１杯に満たないと
しても、それを見て見ぬふりで、ごまかしていたら
いつか大きな底のない湖になって足をとられるから。
ひかるが俺に "話をする事"の大切さを教えてくれた
今ならわかる。
「へへ、どんなのあるか見ちゃお〜」
「……もういいって、」
リュックを開けようとしたひかるを制止して、胸に
ぎゅっとリュックをしまい込んだ。
ひかるは泣きそうな目で、俺をキッ、と睨んでくる。
「……使う」
「使わない」
ほんと、頑固なやつ。
そのままリュックを床に投げ捨てて、立ちすくんだ
ひかるに片手を伸ばした。
「……こっち、」
抱き寄せて、ぴったり胸にしまうと、熱いからだが
しんなり、と俺に馴染んでいく。
これだって、あのとき話をしなければ、失っていた
かもしれない体温なのだ。
「あんなの、ほんの一部だろ」
ナースとか裸エプロンとか、ねこ耳とかウサ耳とか
そんなのは、ほんの一部だよって。
ひかるとやりたいことは、いくらでも湧いてくるし
毎日毎日増えていくからキリがない、って話をした。
「俺はアイデアマンだからな」
「……ふふ、」
メトロノームみたいにゆっくり、と、言葉を刻んだ。
あわよくば、ひかるが安心して眠くなってしまえば
いいと思いながら。
「なくなんない？」
「……なくなんないよ」
少しまどろんだ声に耳を澄ました。
ふっ、と両手で頬を包んで、上を向かせたひかるは
嬉しそうだけど、まだ器の底にドロドロした不安が
残っていそうな顔で俺を見ている。
俺は胸にしまっていた金ぴかのスプーンを、
さぁいよいよお前の出番だぞ、と、高く持ち上げた。
「ちゃんとわからせてやっから」
ひかるの耳の後ろがとくとく、と脈打ち、それから
ときめいたって顔で身をゆだねてくれた。
…
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なつな - 初めまして。いつも拝見させて頂いております。ひかるくんが可愛すぎて撃沈しました。何度読ませて頂いても、美しい世界にうっとりします。大好きです。これからも応援しております！！ (2021年6月27日 0時) (携帯から) (
レス) id: f6711a1d35 (このIDを非表示/違反報告)
しょこる(プロフ) - ころねさん» やぶひかちゃんの可愛さに癒されてもらえて何よりです＊本編も可愛く切なく書いていきます*^^* (2020年1月30日 15時) (レス) id: 93d8c8f749 (このIDを非表示/違反報告)
しょこる(プロフ) - しろくまさん» そういう切ない一面もありますよね…(; ;)けど、この頃にはふたりが薄っすら同じ未来を見始めているというか、ひかるくんもいい意味でふたりの終わりを見失っているのかなと、、結局ずーっと一緒にいちゃったねって言えますように＊その辺りも本編で＊ (2020年1月30日 15時) (レス) id: 93d8c8f749 (このIDを非表示/違反報告)
しょこる(プロフ) - hiさん» お久しぶりです(´ω`)コメント嬉しいです＊互いに振り回されたり振り回したり、それで結局愛を再確認したりして、ズブズブ抜け出せないふたりなのかな、と。ここまできたら微笑ましいです…(´ω`) (2020年1月30日 15時) (レス) id: 93d8c8f749 (このIDを非表示/違反報告)
ころね(プロフ) - やぶひかちゃんかわいすぎました！本編も楽しみにしてます! (2020年1月25日 12時) (レス) id: cee1da3861 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：しょこる
| 作成日時：2019年8月24日 22時
