傷口にティラミス＜yb×hk＞

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…





小皿の上のティラミスが三日月の形になった頃、ひかるは
ぐわんぐわん、と、前後に揺れ始めた。





このティラミスには継母のミルク(仲の悪い姑に飲ませる
毒)なんて、センセーショナルな異名を持つウイスキーが
たっぷり使用されているわけで＿＿。

気の強い女もぶっ倒れるそれを、ちびちび口にして、
俺のか弱い恋人がいつも通りでいられるはずがない。



ここまでは、計画通りだ。



俺の胸にとろん、ともたげたひかるは形を保っているのが
やっと。食事の後に出される甘いもの、それがデザートの
定義なら、このひかるは間違いなく、デザートの仲間だと
思った。

少なからず、俺にとっては。





「……やぶのこれってVネック？」
「ん？そーだけど何？」





ひかるはアツアツの指先で俺の襟ぐりのラインをなぞって
Tシャツの胸のあたりを絞るように掴んだ。

そして上機嫌に「へへっ」と笑ったかと思うと、一転して
むすっと頬を膨らませ、心臓に近いところでぼそぼそ嘆く。





「なんでいっつもそんなにかっこいいの？」





ひかるは「ふふっ」とか「へへっ」とか、嬉しそうに顔を
ほころばせ、それから急に静かになって、
おれにはもったいないね、と熱っぽく長い息を吐き出した。

弱音を吐露する表情の色気にあてられて、"困らせたい" と
"優しくしたい" が、ひとつの器の中でぐちゃぐちゃになる。





「へぇ〜、じゃあ俺のこと、」
「っ、それはダメっ…」





ほかの子にあげてもいいか？ってろくでもない冗談だった。

ひかるは俺の胸元にうずめた顔を半分だけこちらに向けて、
生クリームみたいな唇をちょん、と尖らせている。

ひかるの怒った顔は、それこそ、俺にとってはデザートに
違いない。





「まだなんも言ってねーよ」
「……いじわる言うってわかるもん」
「あれ、バレた？」
「……顔に書いてあるもん」





どこどこどこ？
わざとらしく顔じゅうをペタペタ触って、あるはずのない
文字を探すふりをしてやると、ひかるもとうとう吹き出し、
ふたりでおでこをくっつけて笑った。

かわいい八重歯を見せてくれた回数を、またひとつ数える。





「 やぶも食べて？」





はい、あーん。
自分はちびちび舐めるように食べていたくせに、山盛りの
ティラミスをスプーンで掬(すく)ってくれた。

ひかるは目の前に２枚クッキーがあったら、迷わず大きい
ほうを俺にくれる奴だ。


ひとの幸せばかり願う、角砂糖みたいな笑顔。自分は主役
じゃないって、勘違いしている。





「俺はこっちでいいよ」
「んんっ…っ」





…

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